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35歳からのハローワーク/太田明日香 第3回 古本屋(仕事文脈vol.13)

   今回話を聞くのは古本屋さん。蔵書以外の買取や転売には警察で古物商許可が必要。近年は店舗以外にネット販売や移動販売などいろいろな方法が出てきて、開業のハードルが下がったというが、実際のところはどうだろうか。
 今回は奈良市内にあるUR・中登美(なかとみ)団地で実店舗とネット書店を営む本源郷(ほんげんきょう)の小関和典(こせきかずのり)さんと、名古屋周辺でイベント出店やカフェでの読書会をメインに活動する移動書店「雨の本屋」の藤野由香梨(ふじのゆかり)さんにお話を伺った。奇しくもお二人から「前の持ち主から次の持ち主に渡るまで本を預かる仕事」と同じ言葉が出たのが印象的だった。

case_01 「自分の城は、本であふれた桃源郷」
小関和典さん(奈良・本源郷)

——古本屋になる前は何をしていましたか?
 オープンしたのは2013年4月で、45歳のときです。それまではメーカーで設計の仕事をしていました。
 古本屋はずっとやりたくて、大学卒業時に真剣に悩みました。でも、当時は店舗を持たなければ開業できなかった上に、バブル景気が崩壊する直前で景気もよかったし、終身雇用が当たり前の時代だったのと、ものづくりが好きで高専に進学していた経緯もあって、メーカーに就職する道を選びました。
 10年勤めた後、家の都合で一度退職して、その後また10年くらい派遣で技術系の仕事をしていました。5年も過ぎた頃人間関係や、今の仕事が向いていないと思い始めて、だんだん鬱っぽくなりました。僕はもともと、作ったもので人の喜ぶ顔が見たいという気持ちがあったので、一日中会社に籠って設計するのが辛くなってしまったんですね。

——古本屋をやるきっかけは何ですか?
 店を置くこの団地には20年くらい住んでいます。ここは中登美団地といって昭和40年頃に建てられた団地なんです。その頃から住んでいる人たちがご高齢になり、古紙回収の際に重い本の束を持って大変そうにしていたもので、少しずつ手伝うようになったんです。僕は昭和43年生まれで昭和のオタク文化がすごく好きなんですけど、お手伝いしているうちに回収に出す本の中にお宝本がたくさんあるのに気がつきました。「売ったらどうですか?」と持ち掛けると、そんな元気はないとみなさんがおっしゃるので、代わりに僕が古本屋へ売りに行くようになりました。

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