見出し画像

無職の父と、田舎の未来について さのかずや 第一回 田舎だからできることと、その可能性について(仕事文脈vol.1)

Ⅰ 無職の父と、田舎の未来について
2012年9月22日

 思ってたより、深刻だった。
 いま僕は、来週から始まる教育実習のために実家に帰省している。僕の実家は、北海道の片隅にある。実家には事務職をしている母と、高校3年の妹、そして今年の春から無職の父がいる。今回、父の就職活動を少しだけ覗き見る機会があった。そこで僕が父を見て感じたこと、父を取り巻く環境を見て感じたことが、いままで自分が思っていた「田舎」のイメージと大きく異なっていた。

●父について。
 父はうつ病だった。父はずっとこの町で、社員10人にも満たない会社で働いていた。元々自分の思っていることを人に言わない性格で、無断で会社を休んだりすることもあった。
 僕が高校の時ぐらいから軽いうつ病を抱え、治療しながら働いていたが、2年前のちょうど今頃、港で頭をぶつけて海に落ちた。すべて母から聞いた話であるが、母のもとに父から突然電話がかかってきたらしい。
「海に落ちた。頭をぶつけた。港にいる。」
 母が急いで、車で40分ほどかかる港に向かうと、車の運転席でびしょ濡れで座っている父がいたらしい。言葉がたどたどしかったため、母は救急車を呼び、父は病院に搬送された。父は後頭部をぶつけていたようで、脳に軽い損傷があったらしい。大学2年だった僕はギリギリ夏休み期間だったため、数日後に大阪から帰ってきて父のお見舞いに行った。父は集中治療室のベッドで寝ていた。ほとんど意識がなく、目が覚めてもあまり反応しなかったのを覚えている。

 その後、父の状態は徐々に回復していった。会社のほうは復帰まで待ってくれるとのことで、僕達家族は本当に安心した。数ヶ月して退院し、リハビリに通いながら、仕事にもゆっくり復帰した。しかし元々あまり喋らなかった父が、更に思い通りに話せないようで、幾度か突然「仕事やめる」と言うことがあったりしたらしい。僕はその時父に電話して、「おれはなんとかなるから、お父さんのやりたいようにしなよ」と伝えた。その時父は、
「まあ大丈夫だ、カズが卒業するまではやるよ」
と言っていたが、結局父は仕事をやめた。今年の春の話だ。
 それから半年。約1年間の失業保険の期間が半分ほど過ぎた。現在は母の稼ぎと月15万の失業保険で生活している。父は家事をしたり、テレビ見たり、ほぼ唯一の趣味である釣りに行ったり。就職活動はあまりしていない。僕は母方の祖父母ととても仲が良いが、母方の祖父母は父がなかなか働かないことに焦れているようだった。それが僕にとっては結構辛い。

ここから先は

9,108字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

お読みいただきありがとうございます。サポートいただけましたら、記事制作やライターさんへのお礼に使わせていただきます!