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さわる社会学 第五回「差別の交差性」/堅田香緒里(仕事文脈vol.15)

 あまりにも資本主義的で家父長的なジェントリフィケーションの暴力は、各地で、その土地に根差した人びとの暮らしやコミュニティを破壊し、街を「浄化」し続けてきた。しかし私たちが忘れてはならないのは、こうした暴力に対しては、常に抵抗があるということだ。歴史を振り返ってみると、そうした抵抗の代表的な形態は「占拠/スクウォッティング」であると言えるだろう。「占拠/スクウォッティング」というと、少し仰々しい響きを感じるかもしれない。けれども、日々の暮らしやささやかな文化を剥奪されないために、たとえば葉書を一枚書く、あるいは都市に庭を造る(アヴァン・ガーデニング)、という行為もまた、占拠に連なる――あるいは、ときにはそれ以上の強度をもった――一つの抵抗なのである(詳しくは、「さわる社会学」第二回、第三回参照)。

▼ロンドンのワーズ・コーナーで起こっていること


「再開発」/ジェントリフィケーションの進行は、単に建造物を造り替えるだけではなくそこに暮らす人の日々の暮らしやコミュニティを根こそぎ破壊し、土地に宿る息遣いを変えてしまう。だからこそ、それへの抵抗もまた、日々の暮らしやコミュニティ、あるいは暮らしに宿る文化や価値という要素を捨象しては捉えられないだろう。そしてそのような、日々の暮らしや文化、コミュニティを大切にすることと地続きであるような抵抗運動は、しばしば女性や移民といった、社会の中で周辺化されてきた人びとによって担われてきた。だからこそ、そうした抵抗運動はしばしば、ジェントリフィケーションのもつ資本主義的側面だけではなく、その人種差別的側面や家父長的側面にも光を当ててきた。ここでは、ロンドンで生まれた、そのような抵抗の事例の一つを紹介したい。
ロンドン北部のハーリンゲイ区に位置するワーズ・コーナー(Wards Corner)は、古くからロンドンのラテン系コミュニティの中心地であった。もともと、移民の露天商が多く集められていたエドワード七世時代の(Edwardian)廃れた建物にちなんで、ワーズ・コーナーと名付けられたと言われている。なかでも「セブン・シスターズ・インドア・マーケット(Seven Sister’s Indoor Market)」は、ロンドンで唯一のラテンアメリカ系マーケットとして知られ、ラテン系のショップやレストラン、カフェで賑わってきた。この地域は、90年代以降ロンドンでも急速に進んでいる「再開発」を逃れて生き延びてきたが、2004年に区の再開発計画が始動して以降、危機的状況に置かれてきた。住民たちはこれに対抗して、コミュニティを守るための闘いをずっと続けてきたが、2017年にいよいよ「セブン・シスターズ・インドア・マーケット」が「再開発」の直接的なターゲットになってしまった。ハーリンゲイ区が、民間のディベロッパーであるグレインジャー(Grainger)によるこのエリアの再開発を認めるという決定を下したのである。
グレインジャーは、196ものアパートを新しく建設する計画を立てているが、その家賃は、現在ワーズ・コーナーに暮らす住民たちには到底手が届かないようなものである。そのうえ、個人商店のためのスペースは6ユニット分しか用意されておらず、これまでマーケットで生計を立てていた多くの人がその職を奪われることになる。これにより、この地域で長く生業を営み、暮らしてきた多くのラテン系住民たちが、強制的な立ち退きの危機に直面させられることになった。グレインジャーは「今のマーケットの文化や活気を維持する」というが、誰もそんなたわごとは信じないだろう。
ハーリンゲイ区とグレインジャーによるこうした暴挙に対抗して、このエリアにおける反ジェントリフィケーションの動きはますます激化していった。ちなみに、この原稿を書いている2019年10月に、この地域の商人たちが、ハーリンゲイ区の土地強制収用命令に対する闘いを高等裁判所に持ち込んだ――闘いは、現在進行形で続いているのである。

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