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「聞く」という仕事 第八回 「雑談」取材を振り返って/辻本力(仕事文脈vol.21)

 いろいろな人と雑談をしまくる、という内容の本を作っている。タイトルは『失われた〝雑談〞を求めて』。現在、編集作業も佳境に入り、本稿が掲載される『仕事文脈』が出る前後には刊行となっているはずだ(版元は、本誌と同じタバブックス)。

 これは、私が編集人を務める雑誌『生活考察』の最新号(Vol.08、2021年12月発行)に収録した同名企画が元になっている。

 コロナ禍で移動が制限されたことで、人と気軽に、他愛のない話をすることがなかなかできなくなった。以前は、人と雑談をする機会は無数にあった。打合せ後のちょっとした時間。取材仕事が終わり、解散するまでの一時。飲み会。飲み屋のカウンター……等々。これらのほとんどが、一時的に失われた。打ち合せも取材もオンラインになり、だいたいの場合、用件が済むや否や通信は切られる。飲み会はなくなった。飲み屋は一時的に営業を自粛していたし、行けるようになってからも席がアクリル板で区切られていたりと、とても隣客とフランクにお喋りするような感じではなかった。私は仕事場が家だということもあり、基本的にはどこにも出かけず、籠りっきりになった。家族以外との会話は、スーパーでの「袋付けますか?」「いいえ、大丈夫です」のみ̶ ̶に限りなく近いところまで激減。あとは、定食屋で注文と会計をする時くらいか。ディスコミュニケーションが進みに進んだ結果、ある時、自分が空っぽになっていることに気づいた。企画会議のようなものに出ても、まったくと言っていいほど、何も浮かんでこないのだ。何気ない日々の会話が、自分にとって、いかにアイデアの源泉として大切なものであったかを痛感した。

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