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8. 脱コルセット、この先の未来へ/朴慶姫

荒々しくて、走り回ることが好きで、積極的な女の子が「じっとしていなさい」と叱られる理由は、不動の姿勢を維持しなかった、力を行使したという呵責を抱かせ、規範的女性性を達成できなかったという失敗を学習させるためである。

우악스럽거나 뛰어다니거나 적극적인 여자아이에게 ‘가만’ 있으라는 꾸중이 내려지는 까닭은 부동자세를 유지하지 않았다는, 그리하여 힘을 행사했다는 가책을 안겨 규범적 여성성을 달성하지 못했다는 실패를 학습시키 기 위함이다.

イ・ミンギョン『脱コルセット 到来した想像』 第5章「平面的な自我イメージから立体的な自分へ」より

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  友人が転職した。学生時代から優秀だった彼女はいわゆる「いい会社」から「もっといい会社」に移った。すでにコロナ禍だったため、リモートで彼女の転職を祝った。二人で話すのは久しぶりだったけれど長い付き合いなので、画面越しでも今日はお互いゆっくり話したいと思っているとすぐに分かった。彼女が言った。「新しい会社でさ、これからどんどん活躍して上を目指してくださいね、期待していますよって言われたんだけど、正直に言うと、これからのことがうまくイメージできないの」すぐに「あ、それなら私も」と思ったが、口には出さなかった。何となく嫌な予感がしたけれど、彼女と自分は違うと思った。いや、どうか違っていてほしいと願った。

 思い出すだけで後味が悪いのだけれど、あのとき、「あ、それなら私も」と思った話をここで紹介しようと思う。実家に帰ったとき、私は仕事関係の調べものをするために本を読んでいた。途中からは内容が面白くて、調べもののことなんてどうでもよくなっていたのだけれど、両親の目にはそれはそれは熱心に仕事をしているように見えたらしい。母に話しかけれられた。「ねえ、子どものときからそれくらいがんばって勉強していれば、医者か弁護士になれたんじゃない?」本を読む手を止めて、私はこう言った。「ねえ、私にそんな選択肢なんてあった?」

 母にそんなことを言うつもりはなかった。何不自由なくとはいかなくても、大事に育ててくれた。でも、気がついたら、そう口にしていた。いつものように「あなたはいつも文句ばかりね」と呆れられ、ケンカに発展することはなかったが、後味が悪いと言った理由は、それが母への八つ当たりだったからだ。

 母の言う通り、医者か弁護士を目指すことはできたのかもしれない(なれるかどうかは別にして)。正直なところ、過去の私はこう思っていた。 医者か弁護士は女である自分がなるものではなく、もしも自分がなるとしたら、それは「医者か弁護士の奥さん」だと……(なれるかどうかは別にして)。

 友人が話を続けた。「どんどん活躍して上を目指してって言われても、今以上の役職についている自分が想像できないの。35を過ぎた今でも自分が働いていて、さらに上を目指すなんて考えたこともなかったし。ねえ、私たちにこれからってあるのかな? もし、あったとして、目指してもいいものなのかな?」

 嫌な予感は当たっていた。思い返せば、子どものころ、周りに医者や弁護士、社長や政治家が夢だという女の子に出会った記憶がない。具体的な職業をあげなくても、「えらくなるんだ」と言っていた男の子はいても、女の子にはいなかった。「あなたの周りだけがそう」と言われてしまうとそれまでなのだが、男なら「えらい人」、女なら「えらい人の奥さん」がふさわしく、ふさわしくない未来を想像することは悪いことで、許されることではなかった。ふさわしくないものは無意識に排除されていった。いや、無意識ではない。入念に刷り込まれてきた結果であるといったほうが正しいだろう。

 「そんなの当たり前だよ、私が上の人間でもそう言っているよ」と友人に言ったが、「がんばって」と言うことはできなかった。一度口にしてしまうと止まらなくなって「女を代表してがんばって」と言ってしまいそうで怖かった。少なくとも、自分の分の負担を彼女に背負わせるわけにはいかないと思った。脱コルセットのなかの女性たちの話に出会って、そう思った。自分の過去は変えられなくても、子どもたちには性別関係なく「あなたは将来、なににだってなれる」と言ってあげたい。ありきたりな言葉だけれど、女や男、性別など関係なしに、なにかを代表することなく、みんながみんな伸び伸びと生きられる社会になることを願う。脱コルセットがそれに気づかせてくれた。

朴慶姫(パク・キョンヒ)
神奈川県出身。在日コリアン3世。梨花女子大学国際大学院博士課程にて韓国語教育学を専攻中。梨花女子大学通訳翻訳大学院およびチェッコリ翻訳スクール講師。2020年「第1回新韓流文化コンテンツ翻訳コンテスト」優秀賞(映画部門)受賞。


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