「今が最高!」って思ってほしい 音楽と時間対談 butaji×伊藤暁里(Taiko Super Kicks)

 曲の長さやBPMに、そのミュージシャンの思想が表れるように、「時間」は、音楽において非常に重要なキーワードである。今回は、昨年(2018年)発表したアルバム『告白』が大きな注目を集め、今さらなる活躍が期待されているシンガーソングライター・butajiさんと、90年代オルタナティブロックをルーツに変幻自在にジャンルを越境するバンド・Taiko Super KicksのVo&Gt伊藤暁里さんに、音楽と仕事、そして時間にまつわる本音を聞いた。二足の草鞋を履くミュージシャンたちの考える「時間問題」とは?(司会・構成・撮影:辻本力 構成協力:碇雪恵)

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●深夜の作曲は危険?

——お2人は、ミュージシャンとして活動しながら、他にもお仕事をされているそうですが、いつ曲作りをしたりしてるんですか?

butaji 夜ですね。朝すっごい弱いんで。でも聞くと、兼業しているミュージシャンで、朝作業してる人って意外に多いんですよね。早起きして出社前に毎日コツコツと。

伊藤暁里(以下、伊藤) あ、僕の知り合いにもそのタイプがいます。昼間の仕事の方も手を抜いているわけじゃないから、夜は疲れちゃってできないって。

butaji 伊藤さんは朝強い人?

伊藤 そんなに強くないです。だから僕も夜ですね。朝はギリギリまで寝ちゃう。

butaji 朝やると、出社までのリミットがある分、集中できそうですよね。でも僕はできないから、遅くまで起きてて、寝る時間の方を削っちゃうんですよ。

伊藤 まあ、向き不向きがありますから。

——夜ツイッターでつぶやいた内容を翌日読み返したら「うわぁ……」って消したくなったりするみたいに、夜作詞作曲している時は「いいじゃん!」って思ってたのが、翌日あらためて聴いたら「ヤバ!」ってなることはあります?

伊藤 ありますねー。次の日に「やっぱこれはちょっと……」っていうのは。

butaji 「やっぱこれはちょっと」の程度が、少しだったら嬉しいですよね。全部ボツとかだと辛い。

伊藤 でも、全ボツはさすがにもうないかな。勢いに任せて、みたいな作り方はほぼしなくなったので。曲を作ろうとしている今の自分の状態が、良い状態なのか、ただテンションが高くなってるだけなのか、そこの違いを自覚できるようになったんでしょうね。

butaji 僕は、全ボツに近い時もありますよ。なんか、とりあえず作ってるだけ、みたいな時ってダメなことが多いかも。

伊藤 惰性でやってる感じ。

butaji そうそう。もっとも、とりあえず作っておくと、あとで部分的に他の作品に引用できる時もあるんですけどね。だから、メロディの節回しとか、こんな感じの歌詞にしようみたいなのは、メモにして残してます。

伊藤 butajiさんは、クオリティ的には60点とかでもいいから、定期的に曲を作ろうみたいな気持ちってあります? 例えば、1日1曲作ろうみたいな習慣というか。

butaji 今はないですね。昔はそういうモードの時もありましたけど、ノルマ制みたいなのは、若い時に1回やればもういいですよ。

●時間をかければ良くなる幻想

butaji そういえば、伊藤さんのバンドTaiko Super Kicks(以下、TSK)は最近1曲を作るペースがすごく早くて、すごいですよね。その日作った曲をその日に配信で発表しちゃったりして。

伊藤 とにかく、思い立ったら一気に作り切って、弾き語りを配信する。練りが足りず、結果恥ずかしいものになってしまったとしても、それはそれで肥やしになるかな、みたいな感覚です。バンドでも、一筆書きのような短い曲をやりたいね、と話しています。

butaji 分かる分かる。とりあえずでも出し続けていかないと、どんどん自分への期待値ばかりが上がっていってしまって、作れなくなってしまうんですよね。

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