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7. 輝かサセテイタダキマス。/オ・ヨンア

「私たちにとっては、誰かの妻やどこかの嫁になって、ずっとその家の義父母と夫に誠心誠意仕え敬うより、人としての自分の個性を生かし、私たちの人権を確保することのほうが急を要するより大きな問題だ」
ホ・ジョンスク(許貞淑)1924年11月「東亜日報」

우리는 남의 아내와 남의 며느리가 되어가지고 한갓  집안 시부모와  남편  사람만을 지극히 정성으로 받들고 공경하는 것보다도오히려 사람으로서의 우리의 개성을 살리우고 우리의 인권을 차지하는 것이 무엇보다 먼저 우리 눈앞에 급박한  문제이다

イ・ミンギョン『脱コルセット 到来した想像』 第9章「順応から違反へ」より

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 知人が書き上げた博士論文を贈ってくれました。博士課程でわき目もふらず邁進していた彼女の姿を思い出します。分厚い表紙をめくってすぐの謝辞のページになにげなく目を通しました。指導教授や審査員への挨拶に続いてまず義理の両親への長い謝辞がありました。勉強、勉強で忙しい嫁でほんとうにスミマセンでした、お義父様もお義母様も大変だったと思います。あたたかいサポートに心より感謝しております。そして夫への感謝とわが子への謝罪、ママがいつも忙しくてゴメンね、でもあなたたちがいなかったらここまで頑張れなかった。サランヘ。そして末尾には自分の両親へ、娘を最後まで信じてくれてありがとう。

 壮大でエモーショナルな謝辞と彼女の努力が実るまでの苦労がオーバーラップして読んでいるほうまでうるっとしそうになったのもつかの間、謝辞の順序と分量に出かかった涙もひっこみます。もちろん、義理の両親という方々はきっと本当に物心両面で彼女を支えてくださったのでしょう。心からの感謝が伝わってきます。配偶者の方も、常に彼女をインスパイアしてくれる助言を欠かさなかったと書かれています。なんてすばらしいパートナーシップ!(本心です。)そしてママの不在にもめげずいい子にお絵描きしながら待っていたというお子さまたち。その後は順調に教授職に就いたママ。拍手!まぶしいくらい輝いて見えます。

 ただ、ふだん近寄りがたいほど迫力のある彼女が、常にニュートラルで誰にも媚びない聡明な彼女が、最後の最後に義理の両親にここまでの気遣いを見せる姿は正直意外で、同じ嫁の立場から若干切なくなったのでした。男性の博士論文の謝辞には妻への感謝は書かれていても、妻の両親に言及しているケースはあまり見かけないような気がしますがいかがでしょう。

 冒頭の女性運動家ホ・ジョンスク女史の言葉はおよそ100年前のもの。女性の選択肢が広がったともいわれる現代に、自分らしくありたいと願ってその努力を実らせてもなお、私たちは誰かに了解をとったり感謝したり謝ったりしないとならない。あるいは、しておいたほうがいい。誰かに強制されたわけではないのにもかかわらず。誰もが、置かれた環境でさまざまな役割や義務を背負っています。そこでの自己をどう扱うか。内的脱コルセットを果たすことが自分らしさを見出す道だと100年前の言葉が教えてくれています。

約100年前、ホ・ジョンスクは女性解放運動の一環として断髪運動を行なった(原書. P255より)

オ・ヨンア(呉永雅)
在日コリアン3世。2003年より韓国在住。訳書に『悲しくてかっこいい人』『話足りなかった日』(共にイ・ラン著/リトルモア)、『秘密を語る時間』(ク・ジョンイン著/柏書房)、『かけがえのない心』(チェ・ヘジン著/亜紀書房)、『続けてみます』(ファン・ジョンウン著/晶文社)など。


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