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バンクーバーと仕事 第1回 初めてのパート/太田明日香(仕事文脈vol.8)

 家を出るのは7時半。仕事を始めた1月に比べたらずいぶんと夜明けは早くなった。冬のバンクーバーの天気は安定しない。見渡す限り霧が立ちこめている日もあれば、しとしと雨が降っている日もある。今日はほんのり朱色の朝焼け。森に囲まれた半島の先からバスで10分。森の裏にある海から聞こえるカモメの声は、職場のある住宅街まで来ると野鳥のさえずりに変わる。
 バスを降りて10分歩くと八百屋が2軒見える。年期の入った緑のテントの店とロゴが入ったテントが目印のバンクーバーのチェーン店。2軒目の方がわたしの職場。店頭でセール品を並べている副店長のリントンが10メートル先からも見える。わたしが手をあげると彼も気づき、互いにあいさつをする。
 仕事は朝の8時から。制服は店のテーマカラーの緑色のエプロン。時給は最低賃金の10.45ドル。担当はフルーツ売り場。品出し、検品、レジ打ち、接客。これがわたしの仕事の全部。ここまでくるのが長かった。

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