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新国立競技場の目の前ではたらく人(仕事文脈vol.16)

2020年7月の開催をめざして工事真っ最中だった新国立競技場。その真向かいに建つビルにデザイン事務所を構えている人がいると聞いた。東京2020の象徴のような場所に通い、毎日変わっていく様子を目にしていることについて、その場所で話を聞いてみた。(編集部)


-本当に目の前ですね。毎日目にされていると、何かしら感じることがあるのかなと思って今日はお伺いしました。

米山 そうですね。いや、でもみんなとたぶん変わらないと思いますよ。ここに事務所を構えたのは6年前ぐらいで、その頃、ここの隣の建物に賃貸で住んでいたんです。前の東京オリンピックのときに選手村として建てられたものが民間に払い下げられたという建物で。あんまり飾り気のない、でもしっかりと作られたマンションで、その頃からずっと住まれている高齢の方も多かったんですが、都心のわりには安くて、同世代や少し上の世代にも人気があって。すごく気に入っていました。
そのとき、このビルのテナントが空いたのが、廊下から見えたんですよ。あれ、なんか暗かったのがスカッとしたみたいな。前は古着屋さんの倉庫として使われていたらしいですが。それで見にいったら、1階に「空き室あります」って貼り紙があって、大家がこの1階です、1階に問い合わせてくださいって書いてあって。

-貼り紙を見て!

米山 そうなんです。1階の大家さんが和食屋さんで、ボリュームのある天ぷら定食や刺し身定食を1000円で出すっていうこの辺にはあんまりないような店で。今も営業されているんですが、ご主人は70歳近いのかな? 不動産屋を通したくない、自分もこのビルを買った時にテナントとして借りてて、当時の大家さんから直接買ったみたいなことおっしゃってて。その方に直接お会いして、案内してもらいました。聞くと、こういう場所なので、わりと色んな人が問い合わせに来てたらしいんですが、あやしい風貌の人には「ちょっとどうしようかな」みたいにごまかして貸さなかったとか。

-米山さんは無事借りられたんですね。そのときはオリンピックの話もない頃ですか?

米山 決まってなかったですね。噂もなかった。私はもうオリンピックしなくていいと思っていますが。建築案がザハ・ハディットさんになったのとかもわりとヒヤヒヤしながら見てた。私は田根剛さんの案になればいいなと思っていて。古墳のような、小高い森みたいになっていて、近所にあってうれしいのはそれだなって。ザハさんのはたとえば湾岸とか、レインボーブリッジのあたりにあったらすごくいいけど、ここに来るのはちょっと暴力的すぎやしないかって思ってました。

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