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化石の僕へ


夏は夜、月の下にはサラリーマン
さそり座ちょうちん羽虫たこ焼き
退勤してから街に繰り出す、
子供が駆ける七夕の宵
風切る狐の坊主の手には、
ティラノサウルス知育のお菓子
縒れたワイシャツに滲み出す、
二十年前、長瀞、石畳の記憶

更新世への家庭訪問、
パレオパラドキシアの墓荒らし
太古の香水、清く流るる白い骨
粉骨砕身、岩壁を削ぐ、汗、泥だらけの深爪
粉にした骨は、飲み込めば薬になったらしい
良薬や口に苦し、
甘酸っぱい青春は清涼飲料水に溶けるのか
身はとっくに砕かれている、
虫に、川に、星に、砕かれている
ない肉を描く画家がいる、血さえ使わず、
どうして肉が現われようか

ああパレオパラドキシア、
パレオパラドキシア・タバタイ

こころここにあらず
なみだもここにあらず
お前はここにいないのか

否、

こころここにあらずや
なみだもここにあらずや
お前はここにいるではないか

二十年と等価な百七十万年の積み重ねが、
ただ、在る

眼に映ったのは星が流れる小さな円環、
宝石すくい
腰をかがめる、きしむ筋肉、
ワイシャツの皴が一気に伸びる
サラリーマンの足跡は、
下駄はく浴衣に押しつぶされる
ふりかかるわたあめ、
トッピングシュガーのほうき星

「なつくさや、つわものどもが、なんとやら」






画像引用元
長瀞町観光協会公式ウェブサイト


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