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江戸崎かぼちゃの魅力について

明日私が生産したかぼちゃを初めて出荷します。私が江戸崎かぼちゃを初めて食べてから2年。稲敷市に移住し、南瓜部会と関わらせていただくようになってから1年以上が経った現時点で思うことを記してみたいと思います。

正直に言って、東京にいたころ私は江戸崎かぼちゃを1ミリも知りませんでした。仮に小売店に江戸崎かぼちゃが並んでいたとしたら、よく知らないかぼちゃがメキシコ産の倍の価格で並んでいるようにしか見えなかったと思います。そして、メキシコ産のカットかぼちゃを手に取っていたと思います。

稲敷に移住してからはさすがに江戸崎かぼちゃの知名度は高く、出会う人に、「江戸崎かぼちゃの研修生です」と自己紹介すると大概の人はかぼちゃを認知してくださっていると感じます。ついでに「高(くて買えな)いよね」と返ってくるのがたいがいです。そして、「ですよね~」としか返せない自分がいます。

それでも毎年かぼちゃは売り切れていて、供給が需要に応えられていないのが現状だといいます。たしかに、出荷時期になると土浦ナンバー以外のでっかい車が直売所の駐車場に並びます。したがって、固定ファンがついていることも理解できます。だから、なぜ高いのかという問いには中学生でもわかる単純な需給バランスによって説明できると思います。ただ、それでは単なる結果論に過ぎないので、その価値と魅力について改めて考えたいというのが本稿の趣旨です。

はじめに、部会の公式声明としてのかぼちゃのアピールポイントをなぞっておきます。江戸崎かぼちゃの特長は大きく2つあります。①完熟収穫、②全品検査です。

完熟収穫については、農林水産省 地理的表示保護制度の登録の公示の中で次のように説明されています。

【完熟収穫】
・一般的には、完熟前に収穫し貯蔵庫で追熟させるが、江戸崎か
ぼちゃは、原則、着果後55 日以上(※)で収穫する。
(※昭和50年前後に、5年程度の年月をかけて繰り返し実施した、
試割りの調査結果を基に設定した完熟にかかる日数)
・完熟前のカボチャの外観と比べ、果皮の緑色が濃く、質感がゴ
ツゴツしている。また、果肉色は完熟前のカボチャと比べて、濃
いオレンジ色である。

地理的表示保護制度 登録産品 第6号 江戸崎かぼちゃ 「明細書」(農林水産省)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/register/0006/pdf/0006_specification.pdf(2024年5月13日閲覧)

食味については、ホクホクとした食感で甘味がある、と評されている。生産者サイドとしては、この独特のホクホクとした食感が出るか否かによって江戸崎かぼちゃとしての品質を満たしているかを判断しています。しかし、すべてのカボチャを煮てしまうわけにはいかないので上記のような基準をもって完熟かどうかを判断しているのです。

検査体制についても同様に、

出荷前の全品検査(一般的なカボチャ産地では数点の抽出検査を実施する程度 で、全品の品質検査は実施していない)など徹底した品質管理を実施している。

地理的表示保護制度 登録産品 第6号 江戸崎かぼちゃ 「明細書」(農林水産省)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/register/0006/pdf/0006_specification.pdf(2024年5月13日閲覧)

補足すると、出荷の際、生産者はJA稲敷中央集荷場にダンボールにカボチャを詰め、開口のまま持参します。集められたカボチャは全品、部会役員と農協職員からなる検査員によって一つ一つ外観をチェックされてから封を閉じられて出荷となります。熟度は外観からも判定できるので、完熟かどうかを検査しているのです。検査を通過しないものは返品となり、出荷されることはありません。

要するに、カボチャの一番おいしい瞬間を見極めて収穫し、それを確実に検査すること。これが江戸崎かぼちゃの特長だ。と説明しているわけです。

私見

「完熟」「ホクホク」が最大の特長であることは間違いないのですが、私がはじめて江戸崎かぼちゃを食べたときに感じたことは「これがホンモノのかぼちゃの味なんだ」ということでした。煮汁にずぶずぶに浸かった煮つけしか食べたことがなかったし、それはそれで好きでしたが、しょうゆと昆布だしの味で食べていたことを思い知りました。砂糖と塩だけで煮ることでかぼちゃの色、きれいな山吹色も映えるし、かぼちゃの濃厚な風味が引き立つ。そんな食べ方ができるかぼちゃは他にはなかなかないのではないかと思います。

定植や収穫まで機械化される昨今の農業界ですが、例えばメロン産地の鉾田では糖度センサーによって選果を行うようになったみたいです。そんな中、畑で一つ一つ熟度を確かめながら収穫して、一つ一つ手で触って検査するというやり方が現在まで保存されていることもやがて大きな遺産としてあらわれてくるはずだと思います。おいしさの指標も「糖度」というパラメータによって単純な比較ができるようになりました。スイカもメロンもトマトもさくらんぼもみかんも一緒くたに同じ指標で比較されるようになりました。そういう意味では江戸崎かぼちゃは糖度は高くないし、もっと糖度の高いかぼちゃは他にあるわけです。ただ、かぼちゃの味わいが最も感じられるかぼちゃとして江戸崎かぼちゃの価値はあると思うのです。かぼちゃにはかぼちゃの味がある。そのことがはっきりとわかるところに江戸崎かぼちゃの魅力を感じています。

また、遣い物としての役割も果たせるということも魅力だと思います。外観にもこだわっていて、傷がつかないように、着色が良くなるように育てます。そして、持ったときにずっしりと重みがあって、肌はゴツゴツしています。そのため、誰が手にとっても「立派だ」「美しい」という感想を持てるかぼちゃだと思います。だからこそ遣い物になるのです。ただ自分で食べる分には安くてそこそこ美味しければ満足かもしれませんが、他人に贈り物をする際にはその限りではありません。少し高くてもなるべく良いものを用意したいものです。実際に江戸崎の人(特に高めの年齢層)は毎年の贈り物にかぼちゃを買う習慣があります。今私がお世話になっている大家さんも毎年たくさんかぼちゃを買って、親類や友人への遣い物としています。自分のアイデンティティをかぼちゃに代表させて表現しているわけです。これは江戸崎の文化とも言えましょう。つまり、かぼちゃ自体が江戸崎という地域を代表しているということです。逆に、江戸崎かぼちゃがもっと有名になれば、江戸崎という町のことも知ってもらえるわけです。考えてみると、地域のイメージとしてそこでとれる農産物を結び付けるということはかなり普遍的なバイアスだと思えてきます。例えば私が自己紹介をして練馬出身だというと、かなりの確率で「練馬大根の練馬ね」とリアクションされます。実際にはもうほとんど生産されていないし、おそらく練馬大根を食べたことがある人は相当少ないのにもかかわらずです。稲敷市といえば、江戸崎といえばかぼちゃだね、という時代はおそらくあったのだろうと思うのですが、現在はそうでもないのかなと感じます。だからこそ、江戸崎かぼちゃが再び有名になれば稲敷市、江戸崎というまち自体の知名度も上がっていくはずだと思います。そうなれば江戸崎かぼちゃの価値というのはまた数段上がるんだろうなと思います。そのための広報・営業がまだまだ足りていないと思うし、調べてみると部会組織としてそこに取り組んできた歴史もあったことがわかりました。そんな産地も珍しいと思うし、そうした歴史も大事に引き継いでいきたいなと思うのです。

まとめると、完熟ホクホクで美味しいということだけではなく、江戸崎かぼちゃにまつわる歴史や文化までひっくるめて価値として認識していくことが大切だなと思っています。また、私が感じたホンモノのかぼちゃの味、をうまく言語化して説明できるようになりたいなと思いました。江戸崎の人は逆にホンモノではないかぼちゃに慣れていないわけで、私のカルチャーショックはよそ者だからこその気づきなのだということ。そこを伝えていくことが私の使命なのかもしれません。


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