これだけでは判断できない、と考えるべき情報について

事実かも知れないが、勝手に結論を導き出してはいけないことがあります。数値は大事。でもそれだけでは何も言えないこともある。今回はそんなことを考えてみましょう。

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(1) このような情報を見たときに考えるべきは、接種している人の割合がそもそもどの位なのかという点でしょう。元々ほとんどの人が接種しているのなら、感染者の中で接種した人の割合が多かったとしても、何の不思議もありません。つまり最初に確認すべきは、関係者のうちどの位の割合の人がワクチン接種済みだったか、情報を探すことでしょう。そして数値を比率で修正して比較する必要があります。
具体的には、
  接種済みの人で感染した人/接種済みの人
    未接種の人で感染した人/未接種の人
の比率を比較することです。これが最初の1歩です。

(2) 次に注意すべきは、ワクチン接種に何らかの偏りがなかったか、の確認です。ワクチン接種がランダムに行われておらず、優先的に接種した人に何かの特徴があるのなら、その影響が数値に現れる可能性があります。この例でも、高齢者のワクチン接種率が高かったため、接種して感染した人が多かった、さらに重症化したり死亡したりする例が多かった。こう解釈できます。

(3) さらに。この数値がどのような調査の結果だったのかを知ることが重要です。何時の情報か。数値の定義と信頼性。そして今、ワクチン接種後、抗体価が下がるという指摘がされている中、接種後どの位が経過しているかなども重要な要素になりえると思います。こういった細かな情報まで踏み込んで初めて得られる結果もあるはずですね。


ところで上の文章の最後は、
  「日本の医療従事者や高齢者にとっては厳しい結果かと」
となっています。本来、このような結論を出すには、後ろ向きの評価ではなく前向きの評価、つまりRCT(ランダム化比較実験)などを行う必要があります。後ろ向きの評価では、様々な因子が混ざり合ってしまい、効果の有無がわからなくなってしまうからです。この例では、年齢が高いと(感染の有無にかかわらず)元々重症化リスクが高かった、これとワクチンの影響が重なってしまい、ワクチン接種者の方が重症化してしまったように見えた。こう考えられます。

つまり最初の情報だけでは、数字が正しかったとしても、その数字だけからはほとんど何の結論もできません。イスラエルでも高齢者からワクチン接種が行われた、接種率は高い、という別の具体的な数値情報があれば、結論できることはいくつかあるでしょう。さらにデータが集められた状況までわかれば、もっといろいろなことが結論できるでしょう。


実はこれ、「重症者の6割がワクチン接種者」 と同じ構造ですね。誤解が多い「重症者の6割がワクチン接種者」という記事にも注意点を書いていますので参考にしてみてください。


 単純化された結果(数値)を見て、理解したつもりにならない。
 自分が正しいのだと安心するために、情報を探していないかと自問する。


(今回はあえてtwitterへのリンクはつけていません)