塩野義のゾコーバ

塩野義のコロナ飲み薬について、7月20日、「継続審議に 厚労省分科会、緊急承認は見送り」などの記事が出ました。もう少し詳細が知りたくて調べてみました。結論を言えば、元々無理な申請。感想としては、無理を承知で申請を出さざるを得ない立場に置かれてしまったのだろう、と感じました。

まず、本件は7月20日に行われた薬事・食品衛生審議会 令和4年度第3回薬事分科会、令和4年度第6回医薬品第二部会(合同開催)での結論です。以下は資料1の文章です。長いですが該当箇所をコピーしました。

 別紙のとおり、提出された資料から、本品目の SARS-CoV-2 による感染症に対する有効性について、国際共同第II/III相試験(T1221 試験)の第IIa 相パート及び第IIb 相パートの成績に基づき、本薬によりウイルス量が減少する傾向が認められていることは否定しないが、申請効能・効果に対する有効性が推定できるものとは判断できず、当該試験の第III相パートの結果等を踏まえて改めて検討する必要があると考える。有効性の評価は上記のとおりであるものの、医療・社会的観点から、本剤をより早期に使用可能とすることの検討も可能と考える。ただし、現時点で得られている情報等を踏まえて本剤が承認される場合には、国際共同第II/III相試験(T1221 試験)の第III相パートの成績等に基づき有効性を再検討し、その結果に応じ、製造販売承認の見直しを含めた適切な対応を取る必要があると考える。
 本薬の安全性について、国際共同第II/III相試験(T1221 試験)の第IIa 相及び第IIb 相パートの結果を踏まえると、安全性上の大きな懸念は認められず、一定の忍容性は示されていると考えるが、SARS-CoV-2 による感染症の患者に対する本薬の投与経験は限られており、本剤が製造販売後に多くの患者に使用された場合に、新たな安全性上の懸念が生じる可能性は否定できないと考える。なお、現時点で得られている情報等を踏まえて、本剤が承認される場合には、添付文書において、催奇形性リスク及び薬物相互作用を含めて適切に注意喚起を行う必要がある。また、実施中の国際共同第II/III相試験(T1221 試験)の第IIb/III相及び第III相パートの情報を含め、さらに安全性の検討を行い、新たな知見が得られた場合には適切に医療現場に情報提供する必要があると考える。

私の医学知識はゼロですが、文章を読み解いてみると、以下のことを主張しているようです。
・ウイルス量が減少する傾向が認められている
・申請効能・効果に対する有効性が推定できない
・安全性は、被検者が少なく不明、催奇形性リスクなどの注意喚起が必要
・第III相の治験の結果を見極める必要がある

仮説検定の事前知識として、データ数が多いほど有意な差が出る可能性が高くなります。しかし医療現場では、増やすことは難しい、結果を見てからデータを追加していくことはNG、なので実験開始時にすべての実験計画を立てることが求められているそうです。今回の例では、第III相の治験で被検者数が増え、有意な差が出せることを期待しているようですが、最初からの計画どおりで治験が進められているのかは要確認だと思います(以下に紹介した辛口報道からの推測)。

もう1点は、傾向があっても有意な差があるとは言えない点。意外に誤解されやすい点です。傾向があっても、有意な差がある場合も、ない場合もあり得ます。有意な差が出るかでないかは、データ数に依存するからです。これは統計の基礎中の基本で、たまたま起こることを排除するために行われます。そして今回、専門家はここを問題視したということでしょう。


 “承認見送り”舞台裏詳報 塩野義治療薬に厳しい意見相次ぐ

この件に関しどんな議論が行われたのか。辛口の記事です。中々興味深いです。内容のポイント:

・パンデミック時に早期に治療薬やワクチンを承認するため今年創設された「緊急承認制度」を使って行われた初めての審査(最初「条件付き早期承認制度」を利用したが保留になった。同じデータで再度審査を請求)
・ウイルスが減少する効果は確認できているものの、新型コロナウイルスの12症状の改善状況については、基準を満たしていない(発熱、けん怠感、せきなど、ほとんどの症状で、回復の傾向がほぼ同じ推移)
・「何度も解析すると優位になることが出るのはよくあること」
・「(症状改善の評価点がクリアできていないのに)なぜ最終の臨床試験の報告を待たずに審査するのか」「最終段階の臨床試験の結果が出るまではとても使えない」
・患者が基礎疾患のために服用する薬との併用ができない
・催奇形性の可能性、妊婦や妊娠の可能性のある女性への投与も難しい


この内容を知ると、どう考えても医療統計に精通した担当者たちは、審査が通るとは考えていなかったと思います。(実際、塩野義の統計チームのレベルは相当高いそうです)

とすると誰かが申請する方向を作ったはず。

実はすでに厚労省は3月下旬、薬事承認を前提に100万人分を購入予定を発表しています。これを考えると、アビガンと同じように、効果がありそうな傾向があるのだからと申請を出させた(仮説検定を理解していない)誰かが指示した、と考えるのが普通でしょう。

そしてやっぱり審査で専門家から却下された、と考えると流れが理解できると感じました。


安部元首相が推進していたアビガンも、2020/07時点で効果の傾向はあるが有効性は認められず、当時勿論承認なし。その後追加の治験を行うも2021/11に有意性を出せずに終っています。目的に合わせたデータ改竄は、さすがにきなかったと言えるでしょう。

報道例:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61378960Q0A710C2I00000/
藤田医科大の治験:https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv0000006eya.html
追加:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC12DMW0S1A111C2000000/


データを大事にしないで何かを無理にしようと思っても、何処かで無理や破綻が起きるのです。

厳格な審査をして下さった専門家会議の委員の方々に感謝!