マスクに感染予防効果はある?ない?

時々議論になる、マスクの感染予防効果について考えてみます。但し今回の目的は、ある、ないをはっきりさせることではありません。議論することの意味を考えたいと思います。

そもそもマスクの効果は、「ある」「ない」の二択で考えられるものでしょうか?マスク「着用」「不使用」に分類できるのでしょうか?

マスクに感染予防の「効果あり」「効果なし」
効果あり、なしは、統計学的には帰無仮説をたてて仮説検定を行います。(この場合の帰無仮説は、マスクに感染予防効果がない、マスクの有無で感染率は同じである、となります。調査の結果データからこの帰無仮説が起きる確率を求め、十分低ければ違いがあった、帰無仮説が棄却された、と結論します。)棄却されれば効果ありと結論します。
一方、採択(=棄却されない)の場合は効果不明とされます。言えるのは帰無仮説は棄却されなかった、という点のみ。別の検討によって棄却されるかも知れないし、このまま棄却されない状態であるかも知れない。
つまりマスクの効果が確認されなかった、有意な差は得られなかった、との結論から理解できることは、「今回使用したこのデータからでは、効果があるかないかわからなかった」、です。くれぐれも「効果がなかった」ではないことに注意が必要です。

マスク「着用」「不使用」
普通に歩いていて、マスクをしている人はとても多くなっています。しかし、マスクの素材は様々、マスクと顔の密着度も様々。鼻を出したり、あごにしている人もいます。さらに人はマスクを一時的に動かす、外す、直すを繰り返します。この状態で「マスク着用」「マスク不使用」を二つに分類することに、どんな意味はあるのでしょうか。
当然、マスクを義務化されたら全員が常に正しく着用していると考える根拠は何もありません。義務化されない状態でも、注意深い人は自主的に着用します。「マスク着用」「マスク不使用」のかわりにマスク「義務化」「義務化でない」を比較しても、ほとんど意味がありません。


つまり、「マスクを着用(または義務化)すれば感染率が下がるか?」という単純化された問いに、単純な結論を求めること自体、問題設定としてあり得ないと思うのです。

少し俯瞰してみれば、マスクなどの対策は、感染の連鎖を断ち切ることが目的です。目的を達成するために、マスク+手指消毒+啓蒙活動が効果があることはわかっています。マスクにはシミュレーションでも飛沫を減らす効果は認められ、暴露するウイルス量を減らす効果があることも知られています。だからマスク着用だけを切り出して、効果の有無(二択)を議論することに、どんな意味があるのでしょうか。(強調したいのは、マスク単独では効果があるというエビデンスは得られなかったからと言って、効果がない、とは言えない点です)


私の結論:
・「マスクに感染防止の効果がある」が統計的に確認されなかった(有意な差はなしと結論された)としても、効果がないとは結論できない。
・少なくともシミュレーションで飛沫を減らし、ウイルスの暴露量を減らせることは明確。(暴露を減らすことが重症化を減らすとい可能性が指摘されている。)
・そもそもの目的は、感染を拡大させないこと。だからマスクだけの効果を議論するより、できることはなんでもやる方が先。例えば「マスク+消毒+啓蒙」を行えば効果があることがわかっている。(3つあわせて効果があることが知られているのにも関わらず、その1つだけでの効果の有無を議論するのは、今は無駄ではないか?)