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【ペルソナ5 スクランブル ザ・ファントムストライカーズ】感想 『怪盗団の正義を示せ』


クリアまでのプレイ時間約50時間。
P5Sネタバレ、P5Rネタバレあり。

P5Rでペルソナ5という作品の素晴らしさを知ったのですが、このP5Sという作品はあまりに自分好みで、溢れるパッションを抑えきれない…!ってなっていつも以上にガチ語りしてしまいました。特にcounter strikeとシナリオのあたりがめちゃくちゃ濃いです。

わたしがP5Rというゲームを大絶賛している前提なのですが、今回P5Sシナリオの話をするにあたりP5本編のシナリオに対しちょっと厳しめの意見や感想を言わせてもらってるところが多々あります。こういうのは好みの話なので、大変申し訳ないですがわたしの感想の一つとしてご容赦ください。

よくある人気シリーズのお祭り無双ゲームじゃなく正統派の続編

P5Sクリアしました!
これはとんでもないゲームでした…一言で言うとあまりにわたしの好みのゲームでした。シナリオ、BGM、アクション、全てが最高だった…!それぞれの話はこれから語るとして、まずわたしが驚いたのはP5Sが紛うことなきペルソナ5正統派続編だったところです。無双という優秀な開発チームとゲームシステムは様々な人気ゲームシリーズとコラボしているのはよく知っているのですけど、基本的にはあくまでお祭りゲーであり、本編とは別物として扱われている認識です。わたしがプレイしたものでも、ドラクエヒーローズやゼルダ無双はどちらも本編とは一切関係のないパラレルワールドものだったりして、本編への影響は一切ないものとして扱われていると思います。
その点、P5Sは完璧なるP5本編の続編です。時系列がP5本編後なだけで夢オチだったりパラレルワールドだったりして本編に無影響に作られていることはありません。P5エンディング後、地元に帰った主人公とモルガナ、大学に入った真と春、高校生活に慣れてきた双葉、高校三年生として生活するりゅーじと杏殿とゆーすけ、みんなそれぞれの人生を歩みながら夏休みに久しぶりに怪盗団揃って遊ぶ計画を立てるはずが、パレスによく似たジェイルというマップと人々を脅かす改心によく似た力とそれを行使する存在に気づき、かつてのペルソナの力を使って怪盗団を復活させるのが本ゲームのシナリオです。妥協なく完璧に続編です。これには驚いたし、そしてコマンドRPGの傑作たるペルソナ5に対して、その称号に恥じぬクオリティでペルソナ5の世界に上手く無双アクションを落とし込み、完璧にシナリオを作って見せたのが、今作P5Sだったとわたしは感じています。
正直なところ、わたしはコラボ無双ゲームをクリアできたことはありません。純粋にわたしの好みのゲーム性ではないと思っています。だからP5Rをプレイしてお気に入りの一本となったことに対して、P5Sをプレイしたいという気持ちは正直あまりありませんでした。しかしわたしの予想を完璧に裏切り、今ではこのゲームの魅力に夢中だし、このゲームは最高だったと胸を張って言えます。P5プレイヤーの方にはぜひセットで遊んでほしい一作です。



ペルソナ5世界に美しく落とし込まれた無双アクション

無双ゲーといえば一騎当千、プレイヤーが複数の敵を薙ぎ倒していくアクションゲームのイメージです。そのアクション性からコンボ数が表示されたりしてスコアを稼ぐのが基本のイメージかなあと思っています。また、歴史モチーフのゲームなので相手陣地を奪ったりするのもよくあるやつかなあと思います。
P5Sは、確かにアクション性は無双ゲーです。ですがどちらかといえば無双よりもペルソナ5であることを重視したゲームのように感じました。
まず、コンボ数表示はありません。そのため、コンボ数を競ったりスコアを稼ぐと言う概念はありません。そして、敵との戦闘はシンボルエンカウントシステムです。P5のカバーアクションが採用されており、怪盗らしく隠れて行動しつつ背後から忍び寄り不意打ちをしかけるのが基本の流れです。この時点でも、かなりP5原作を意識した作りになっていると思います。そして敵との戦闘においては弱点や耐性というパラメータが設定されており、基本的に相手の弱点をついて戦うのが効率的な戦い方です。P5本編のように技をコマンドから選択してSPを消費して使用することも可能ですが、コンボ中に技を繰り出すことでSP消費なしで使用ができます。ダウンを取れればお馴染みの総攻撃といったアクションがとれたり、ゲージがたまれば各キャラ固有の演出のSHOWTIMEが楽しめます。パーティメンバーは4人選出しますが、パーティ内ではバトンタッチによってプレイヤーキャラクターを変更でき、追い討ちのアクション中はスムーズに交代可能です。技の組み合わせ次第でクリティカルによるダウンも奪えます。
と、ここまでの要素が全てペルソナ5本編のシステムをアクションに取り入れたものであることがめちゃくちゃわかります。もうこれペルソナ5なんよ。わたしがP5Rで好きだった総攻撃やバトンタッチといった要素が受け継がれているのも嬉しいです。
もとよりわたしはコマンドRPGよりアクションの方が好きなので、お手軽アクションかつP5の要素をふんだんに取り入れたこのゲーム性はかなり楽しめました。最初はよくわからずやってたけど、弱点を突く、コンボに組み込むことがわかってからは特に楽しく遊べました。

P5では主人公しか操作できなかったのが、ジェイルでは操作キャラクターを任意に変更できます。P5本編の主人公の特別感も気に入っているのですが、なんやかんや仲間キャラそれぞれの個性あるアクションを堪能できるのは非常に良かったです。ゆーすけの美しい剣捌きや、ソフィアのヨーヨー捌き、モルガナのちょこまかしたダッシュなんかは見てるだけでも楽しいです。
わたしは相変わらず初期メンを好きになるヘキがあるので、メインは主人公・りゅーじ・モルガナ・ソフィアで遊んでいました。ペルソナの付け替えができるしアクションも機敏な主人公がどう考えても強いのですが、りゅーじ・ソフィア・春んちゃを操作している時が楽しかったなと思います(ひいきキャラ)りゅーじは溜め技を撃ち込む瞬間とか、ソフィアはテンポ良くボタン押してる時とか楽しかったし、春んちゃは銃撃やサイ系の選択はもちろん斧ぶん回しが強くて笑っちゃったね…。
こういうシステムになったゆえに、P5Sラスボス戦では総力戦という最高に盛り上がる演出も楽しめます。ウキウキでパーティ組むの楽しかったな。わたしは主人公ソフィアりゅーじ・杏殿モルガナゆーすけ、善吉真春でした。ラストの少年漫画展開にとてもよく似合うアクションシステムだったなーと思います。

本編の総攻撃のスタイリッシュ演出の素晴らしさも大好きで何度でも見たくなるのですけど、P5Sの総攻撃はザコ敵にはサクサク出せて、ボスキャラにだけ特殊演出が入ります。この演出は本編みたいなスタイリッシュさとは違いますが、怪盗団参上!ドッカーン!みたいなバカバカしさがわたしは結構好きで結構スクショ撮ってました。P5Sは本編よろしく仲間たちがめちゃくちゃに会話しまくったりボイスがたくさん入るのでとても賑やかで盛り上がります。こういうところは無双というゲームにかなり相性が良さそうだなあと勝手に感心してました。SHOWTIMEはりゅーじのクラウチングスタートとか、杏殿のモデル歩きとか好きだな。SHOW'S OVER!!の文句も結構好き。

ドッカーン!な総攻撃演出

演出といえば、P5本編は圧倒的にスタイリッシュかつスムーズなUIが高評価ポイントの一つだと思いますが、P5SもそのP5に劣らぬよう力を入れていたように思います。メニュー画面の遷移は人によってはテンポ感に煩わしさを感じるというのも聞きますが、仲間キャラクターの動きが微笑ましくてわたしは結構好きでした。
あとはムービーも結構多かったなと思っていて、ムービーに関しては本編よりも定期的に入った印象と、導入が自然でスムーズな印象で良かった気がします。

P5初期メンの登場にわたし歓喜

そういやオープニングのムービーが好きって話忘れてたなって思って、また無駄追記しちゃうんですけど、オープニングのムービーが好きです(2回目)。それは毎回見ちゃうくらいには好きです。ボーカル曲のYou are strongerも大変ノリが良くてアニメのOPみたいな盛り上がりが気持ちの良い曲です。特にサビ前がめちゃくちゃ好き。ムービーも最初のキャラクター紹介のかっこよさが非常にツボで、ビビッドな色使いや各キャラクターのアクティブなモーションと指差しポーズの視線誘導がどれもかっこよく、イントロの間にスピーディに紹介していくのがいいなあと見るたびに惚れ惚れします。その後のスマホ回し見のところも演出が面白いし動きが可愛くていいなと思います。サビに入ったら色使いがカラフルになるところも、サビ中は戦闘シーンというアニメっぽいところも好き。オープニングムービーいいよね、って話でした。


『高校最後の夏休みを満喫せよ』

怪盗団復活の世直し旅ということで始まる夏休みの全国ツアーですが、その内容はがっつり観光案内です。個人的にはSwitchで発売された本作品の、教養を重んじる任天堂らしさみたいなものを感じて笑っちゃいました。怪盗団は各地を周りつつ、行く先々で旅行を楽しみます。こういう明るい雰囲気もP5Sの醍醐味かなと思います。
まさかのキャンピングカーで北は北海道、南は沖縄まで堪能することになるハードスケジュールっぷりで、しかも運転はほぼ真一人なのでさすがに心配になりました。真の旅行費用全て代替わりしていいレベルでは?P5でも怪盗団のオカンとしてかなり苦労をかけた印象でしたけど、P5Sでも相変わらずオカンだったので申し訳ない気持ちもありつつ、そんな面倒見のいい真が好きだなと思いつつでした。お料理・買い物担当を務めるジョーカーとはまさに夫婦みたいな関係で可愛い。
わたし自身旅行が好きなので、ゲームでも観光を楽しむというのはすごく癒されるし楽しいなと思いました。行ったことある場所だと実際の地図と同じマップしていることがわかってより面白い。回復アイテムがいっぱいになって選択肢増えてどう考えても邪魔なのに、お土産を買い漁るのもわたしは好きでした。わたしはゲームとしての効率とかも大事とは思うけど、こういう雰囲気で楽しんだりワクワクさせられることが大好きなので、全国各地を観光するP5Sのコンセプトはかなりツボだったなと思います。

野外で主人公の作った絶品カレーを堪能したり
仙台の政宗像を見に行ったり
お祭りに浴衣で参加したり
温泉に入ったり
札幌で観覧車に乗ったり
(完全に遊んでるジョーカー好き)
沖縄にはさすがの善吉もニッコリ
でもこれはなかった。遊んでやれよ


ロックと爽快感がド好みのBGM

P5Sはいろんな要素がわたしの好みど真ん中なんですけど、ゲームを好きになる要素についてBGMの比重がすごく大きいわたしとしてはBGMが好みだったのもめちゃくちゃ嬉しいです。わたしは結構ストレートに戦闘曲が好きなので、what you wish for(通常戦闘曲)のノリの良さが好きで戦闘が全く苦じゃありませんでした。P5のアレンジも随所にありましたが、last surprise(P5通常戦闘曲)のアレンジはロックで爽快感あって原曲より好きかなと思います。深淵のジェイルでは通常戦闘曲がlast surpriseに切り替わるのもめちゃくちゃいい演出でした。blooming villan(パレスボス曲)は原曲も好きでしたがアレンジ版も癖になります。原曲はイントロ、アレンジ版はサビが好きだな。ジェイルの曲も好みなのが多くて、どれもステージの雰囲気に合わせた曲調なのもゲームのBGMって感じで好みでした。ジェイルは特にsingularity(沖縄ジェイルBGM)が気に入っていて、最初の切なげなイントロからロック調になるところなんかめちゃくちゃぐっときますよね…!P5本編ではrivers in the desert(獅童戦など)が一番好きな曲なのでP5Sでも大阪ジェイルのシナリオにめちゃくちゃ熱くなっていたところに最高のムービー演出とともに流れて嬉しかったです。

疾走感溢れる物語のキー曲、counter strike

わたしの今作で一番お気に入りのBGMはそのrivers in the desertの後に流れるcounter strike(ヒーローアキラ戦)です。もうこの曲だけでめちゃくちゃ語れる。ただでさえそこまでのシナリオやムービー演出で最高のシチュエーションだなと思っていた近衛戦ですが、そんな信念の戦いに流れるこのBGMの爽快感、疾走感がたまらなくツボでした。ヒーローアキラ戦は戦闘自体もスピーディで目まぐるしく、BGMの雰囲気にぴったりだったと思います。counter strikeという曲名や歌詞、曲調が近衛目線とも怪盗団目線ともとれる、むしろお互いの信念を懸けた主導権の奪い合いみたいな雰囲気もたまらないなと思います。

近衛戦はシナリオもムービーもBGMも最高なんだ


P5本編に決着をつけるシナリオ

わたしがP5Sで一番驚いたのはシナリオの良さです。わたしはP5が傑作だと絶賛している一方、シナリオに関しては苦言を言っていたところがありました。多様な正義なのか勧善懲悪なのか方向性のブレを感じたり、やりたいことに対して演出や展開が見合っていないと感じたり、心に刺さるシーンやセリフみたいなのもあんまりなかったかなと思っています。(エンディングの挨拶回りは大号泣でP5というゲームの素晴らしさを感じましたが、その涙はP5のコープシナリオの良さやカレンダーシステムの思い出作りの秀逸さからくるもので、メインシナリオとは別だと思います)
P5Sのシナリオは、P5本編への補完、アンサーともいっていい内容です。だからP5S単体で絶賛できるというものではありません。P5をプレイし、素晴らしいゲームを遊んだ実感がありつつもシナリオにはモヤモヤを感じていたところ、そのシナリオのモヤモヤに決着をつけ、補完、改善していったのがP5Sという作品だったなと感じています。


P5本編との相違点

まず、P5Sは本編と敵の在り方が違います。P5はあたかも多様な正義をモチーフにしているようで、実際怪盗団の相手は全て私利私欲に塗れた悪人しかいませんでした。ゆえに、主人公たちにもダーティな一面や遊びなのか真剣なのかわからないところもありながら、それらに目を瞑りほぼ主人公たちに正義があるかのようなシナリオの構成だったと思います。(それに対して、ゆーすけから見た斑目という人間への思いとやり切れなさだったり、社会のプレッシャーに耐えきれず悪事に手を染めた金城、といった描写もありました。わたしはこの描写がめちゃくちゃ好きです。しかし怪盗団と敵対した相手は己の正義を貫いて怪盗団と衝突した人物は一人もおらず、全員私利私欲ゆえの悪行でした。特に序盤で相対する正義を主張した明智が殺人の実行犯であったり、正義vs正義を描きやすそうな政治家設定の獅童まで私利私欲まみれの俗物・小物っぽさがあったところを見ても、P5はほぼほぼ主人公たちを肯定した勧善懲悪のシナリオだったと思います)

P5Rのスクショ。この時の明智は怪盗団の対抗馬としてかなりイイ感じだったのに…


P5Sの各ダンジョンのボスは自分の人生において深く傷ついた経験があり、そこに得体の知れない不思議な力を手に入れたことでそれを行使してしまうというのが基本パターンです。これだけだったら、悪役に同情できる過去や背景が付加されただけでかえって安っぽい演出だったかもしれません。ですがP5Sのシナリオの良さの一つは、そんなトラウマ持ちの悪役達への改心を本編のように暴力一つで行うのではなく、きちんと会話して説得するところです。怪盗団はボス戦後に傷ついた悪役に対して、説得を試みます。そうして悪役の心の傷に寄り添い、相手が納得し受け入れて初めて改心され、そのダンジョンクリアとなります。これは本当に本編との大きな違いで、悪役に問答無用で強制的に改心させていたシナリオに対して、P5Sは心の中の出来事とはいえ改心が説得という手段に変わっています。これだけで、本編で感じてしまった改心という名の洗脳、一方的な暴力という印象がだいぶ変わってくるなと思うのです。

オタカラの奪取でなく、説得して改心する


もちろん、P5本編は本編で「社会がどうにもしてくれないどうしようもない悪を自分達が裁いてやる」という主旨があると思うし、説得でどうにかなるなら怪盗団なんてやってねーよ、人生そんなに上手くいかねーよ、ビターなストーリーが書きたいんだよ、って話でもあったと思います。P5Sの説得して改心する、それだけで上手く話が進む展開は、理想的であり子供向けでありちょっとしたファンタジー展開、悪く言えばご都合主義であることも間違いないです。ですが、個人的な意見として、だからこそ主人公側に貫いてもらいたいことだなと思うのです。時間がかかるかもしれない、上手くいかないかもしれない、それでも貫くからかっこいい。そしてなによりも見ていて気持ちがいいのではないでしょうか。
P5本編はビターさを描こうとし、それなのに勧善懲悪として主人公たちに利があるように思わせたい展開が多かったゆえに、逆ご都合主義的に悪役が全て私利私欲塗れであったりする不自然さや、その矛盾で発生した主人公たちのツッコミどころに目を瞑る、無視するといった展開の歯痒さがありました。P5Sはその中途半端なビター描写をとりやめ、勧善懲悪方向に舵を切ったと思います。しかも、ただ何事もなかったかのようにしれっと舵を切ったのではなく、本編に対する指摘を準備して決着をつけていったのです。これこそ、わたしがP5Sを絶賛する理由であり、好みのシナリオであると感じた理由です。

大阪ジェイルの近衛。本編のツッコミどころ、怪盗団の痛いところを痛快に指摘していく。P5Sで最も熱い展開



キャラクター描写の補足

最初の三つのダンジョンにおいて、トラウマを持つキングを改心して街を救うというP5Sの基本構造がわかりますが、各ダンジョンでメインとなるキャラクターがそれぞれ杏殿、ゆーすけ、春と振られています。この3人のチョイスが絶妙というか、まさにP5本編で描写が少なめだったキャラクターに焦点を当てて掘り下げてくれたところも素晴らしいなと思います。正直残りのメンバーも同様の活躍があるのかと思いきやそんなことはなく、中盤は露骨に駆け足展開で納期に追われてる感すごいですが…、逆に言えば「全員分やるのは難しいとして誰中心のシナリオを選ぶか」というところでこの3人を選んだところがいいなと思うのです。明らかに本編で時間が足りず描写不足だった春んちゃはもちろんですが、杏殿やゆーすけも言われてみれば足りないよねって思わされました。

特にゆーすけは本編では常に怪盗団の客観視役という印象で、自分の気持ちや考えよりも客観的にどう映るかの解説が多かったなと思います。仙台ジェイルは全体的にギャグテイストで楽しかったですが、真面目な場面のゆーすけの描写は個人的に気に入ってます。母親の遺した絵画さゆりを貶められ、冷静に会話をしつつ声色に静かに怒りを滲ませるゆーすけの演技は見事でした。めちゃくちゃ怖かった。そしてあの客観視に努めていたゆーすけが私情丸出しに夏目の前に現れるシーンも、非常に良かったなと思います。

私情丸出しのゆーすけ、イイ
持たざる者のエピソードが好きなので、夏目の話は好みでした


札幌ジェイルでは、キングが春んちゃが小さい時にお世話になったマリさんという、他の2人以上に春んちゃというキャラクターに踏み込んだ内容でした。これもやはりP5本編でダントツに描写不足だった春んちゃに向けたシナリオだなあと感じさせられたし、そういった配慮を感じさせられたのも春好きとして嬉しかったです。特に春んちゃは主人公と個別で会話するイベントがあって、P5本編で春んちゃがどんな感情であの時間を過ごしていたのか語られます。奥村パレスの本編の春んちゃについて、はっきり言ってかなりの描写不足を感じていたため、P5Sのこの待遇には本編に対して足りなかったところを補おうという姿勢を感じさせられました。マリさんを叱責し啖呵を切る春んちゃは、本編のペルソナ覚醒の頃の男前な春んちゃが垣間見えて、感無量でした。

昔マリさんに教えてもらったことを返す春んちゃ。
勇ましい春んちゃが好きだ…
マリさんの演技が、本当は優しいひとというのが伝わってくる


ダンジョンのメインには選ばれてない残りのメンバーも、京都ジェイルでは公安の善吉に父親への想いを馳せる真や、一人取り残された双葉が奮闘するシーン、全般的に怪盗団の中心的に振る舞ったモルガナとりゅーじと、キャラクター描写は満足度高いです。特に新キャラクターでありながら浮きもせず悪目立ちや異物感もなく、中心的なシナリオもこなしてみせたソフィアと善吉というキャラクターの魅力には脱帽でした。

なお、キャラクター描写についてはかなり気を遣っていて、本編でヤンチャしてしまった描写についてはかなり改められた印象です。好意的に見ればキャラクターの成長とも言えるし、メタ目線では前作で不評だった部分を改善しにいった、と言えると思います。
特に本編やらかしで有名なりゅーじとモルガナにはかなり気を遣って描写していたのではないでしょうか。P5Sではりゅーじらしさを損なわないようにテコ入れをしすぎず、仲間思いで身体をはるシーンはちょっと強調してたし、悪いことしたらすぐに謝るようにもなっていました。モルガナも口が悪すぎず、怪盗団のブレーンとして喋らない主人公の理性的な面を補っていたように思います。

りゅーじのこういうセリフもあった。本来は、プレイヤーの印象が「改善」でなく「成長」であるためにも、こう考えられるようになるまでの描写が本編には欲しかったところだと思う。


怪盗団へのcounter strike、大阪ジェイル

ここまでわたしは既にP5Sにめちゃくちゃ満足していたのですが、わたしの中でこのゲームは最高の一本になると確固たるものにしたのが大阪ジェイルのシナリオです。ここがP5Sシナリオの最大の見どころであり、本編へのカウンターパンチとアンサーを示したシーンだと思います。
大阪ジェイルのキングである近衛が想像以上に良いキャラクターでした。海外の反応を見ると「トニースタークみたい」というのをよく見かけ、確かにトニースタークのオマージュだったのかなとも思います。やり手の若社長であり、スマートで清潔感のある見た目とプレゼン力を備え、自分の正義を貫く。オタク的なキャラクターではないですが逆にそれがシナリオへの注力を感じました。
近衛は戦闘前に、怪盗団にいくつかの問いかけをします。その問いかけがどれもわたしの心にブッ刺さって最高の展開でした。近衛の問いかけはいずれも、本編に対する皮肉や怪盗団へのカウンターパンチです。わたしが抱いていたモヤモヤを直球に投げかけていく、かなり痛快なシーンでワクワクさせられました。

たまたま、気まぐれ、という皮肉めいた言い回しが最高。
怪盗団は自分たちの改心は正しく、他人の改心は悪だと思っているその根拠を示せていない。そんなモヤモヤも指摘していく


特に「ではお前たちなら私を救えたと思うか?」はあまりにエモくて刺さりまくりました。このセリフ一つに近衛の悲劇とその切なる思いを感じるし、近衛がなぜこのやり方を選ぶのかわかってしまうからです。怪盗団のやり方ではきっと救えなかったのです。近衛はこのほかにも戦闘中に「救われた者と私の差はなんだ?私はなぜ救われなかった?」というセリフも言いますが、これも最高にハマりました。(バトル的にもたまたまサビ部分でこのセリフが流れたの最高にエモかった…)近衛は誰からも救われなかった自分を思って、誰も助けないのなら自分がヒーローになるしかなく、全員が悲劇を起こさない、取りこぼしなく全てが救われる世界こそ目指すべき世界だと思って改心に走るのだと筋の通った理屈と信念で怪盗団と対立するところが本当に好きです。P5本編にいなかった、正義と信念の対立が唯一できたキャラクター。怪盗団は近衛を救えない。だからこそ何が正しいのか自分たちがやりたいことはなんなのか、いろいろ考えさせられてしまう。P5シナリオの根幹に触れた、最高の演出だったと思います。

このセリフに近衛の正義の全てが詰まっている



怪盗団も言われっぱなしではありません。明らかに本編へのカウンターパンチを喰らわせていく近衛に、「怪盗団は自由を尊重する」「誰かに勇気を与えるためにやっている」と言い放ちます。正直、近衛の痛烈な問いかけに相応しい答えにはなっていません。なっていませんが、わたしにとってはめちゃくちゃ嬉しかったです。わたしはP5Rの感想にも「信念を持って怪盗をやっているという描写が欲しかった」と言っていますが、怪盗団の根っこの考え方、信念はこれなんだと、これが怪盗団の総意なんだと、P5Sでようやくそれが叶ったのです。

近衛のやり方は文字通りの洗脳であり、人に選択肢は与えられない。モルガナは自由を尊重するということを強調する。(え?本編の改心は選択肢を与えずに問答無用の改心=洗脳だったじゃん…というのは置いといて…)

この怪盗団の主張の一つ「誰かに勇気を与えるために」というのは、怪盗団結成の時のビュッフェで杏殿が言っています。だから杏殿には杏殿の正義でやっているんだなというのは、本編でも感じられました。ただ、他のキャラクターが同じビジョンを持っていたのかはかなり怪しく、怪盗団の正義はどこにあるのか、そもそも正義・信念なんてあったのか、最終的にみんなの足並みは揃ったのか、わからないまま決着がつかないまま、本編は終わってしまったとわたしは感じています。

杏殿自身の主張は本編から変わらない


P5Sのシナリオの素晴らしさは、「誰かに勇気を」の主張に対してそれを裏付ける茜ちゃんという伏線を張ったところにもあります。京都ジェイルでも茜ちゃんのキャラクター性と善吉との関係で面白いシナリオだったのですが、この茜ちゃんというキャラクターはまさに「怪盗団に励まされ勇気をもらえた」キャラクターなのです。京都ジェイルのシャドウとして登場した茜ちゃんは、善吉の言葉に対して冤罪をかけられた遺族の気持ちはどうなるの?と問います。この時、茜ちゃんが怪盗団にミーハーなハマり方をしているだけではなく、本当に怪盗団に心を救われているんだなとわかります。
茜ちゃんというキャラクターが出てきたことで「誰かに勇気を与えるために」という主張が独りよがりではないとぐっと説得力が増したところも、良かったなと思うのです。

茜ちゃんの怪盗団オタクのコメディリリーフもめちゃくちゃ面白かったけど、それだけじゃなくて本人が直接救われたわけじゃないけど怪盗団に影響され勇気をもらった人がいること、怪盗行為に成果があることを示唆しているところが見事でした。

近衛撃破後の説得シーン、善吉のセリフも良かったです。確かに怪盗団のやり方は全てを救うわけではない。対して近衛は全員に正しさを強いるシステムを作ろうとしている。善吉は近衛に目の前の救えるものから救えと説得します。これは怪盗団寄りの正義の考え方でもありつつ、近衛がこれだけ大掛かりなことをしている中で本当に救いたかったのはなんなのか、善吉が察知して寄り添った結果なんじゃないかなと思います。社会で酸いも甘いも経験してきた大人の意見だから、単なる意見のぶつかり合いにさせずに近衛と怪盗団の主張合戦に終止符を打てたと思います。(4/24 一部修正。)

全てに正義を強いる近衛のマクロな考えに対し、まずは身近なものから救おうよ、というミクロ視点の回答。こんな冷静な意見ができるのも、善吉という大人がいたおかげじゃないかなって思う

ここまで近衛とのやり取りを絶賛していますが、この両方の意見は議論になってません。ここのシーンはお互いが「言いたいことを言い合う」シーンで、ディベートのシーンではないのです。怪盗団は近衛の問いに完璧に答えられたわけではなく、それ回答になってないよねとか論点ズレてるよねって会話を繰り広げるシーンではあります。でもこのシーンの良さというのはお互いが言いたいことを言い合うこと、つまりこの主張、信念のぶつかり合いこそがP5Sでやりたかったこと、言いたかったことなんだと伝わるところです。近衛の主張は筋が通っていて、それでいてプレイヤー目線でもこの発想には倫理的に問題があると感じられるところです。しかしその問題点を指摘できる人がどれだけいるのだろう?怪盗団の改心は正しく、他のものの改心は正しくないとどうして言えるのだろう?近衛を救うことができない怪盗団の行為は正義なのだろうか?お互いが言いたいことを主張して全てに決着をつける、信念を懸けた戦いであり、そしてこれを乗り越えて初めて怪盗団はついにP5のシナリオに決着をつけることができたのではないかなと思います。

近衛は最高のキャラクターだったよ
善吉、どこまでもかっけえ…


怪盗団の大人担当、善吉

大阪ジェイルの振る舞いはもちろん、全編を通して、善吉が非常にいいキャラクターでした。善吉を通して感じたのは、怪盗団にはやっぱり本当は大人が必要だったんじゃないか、ということです。本編では大人を拒絶し続けた主人公たちですが、善吉のような信頼できる大人を味方につけたことで上手くいくことや学んだことが多くあったように思います。そして逆に善吉からすれば、子供である高校生たちに多くを学び感謝していることも描写されています。一方の立場から決めつけるのではなく、両の視点から見ていく、理解していく、歩み寄る。こういうシナリオの考え方の違いも、わたしがP5Sを絶賛したくなる一つの要素だなと思います。

このコメディリリーフ大好き

P5SのエンディングはP5R(3学期)以上に爽やかです。その清々しさの一つに、善吉とその上司の鏑木管理官の存在もあったと思います。本編終了後も公安に追われる主人公たちになんとなく嫌な気持ちになったプレイヤーも多かったのではないかと思いますが、P5Sは鏑木管理官達のおかげでもしかしたらこの状況が好転するのではないか?と感じさせられ、怪盗団に少し明るい未来が見えたような気がするところも爽やかさがあります。
特に善吉と鏑木管理官のやりとりは、現実と理想の取捨選択に彷徨う葛藤が熱いシーンです。現実主義で冷徹に見える鏑木管理官に、善吉が「だがそれはあなたの正義が許さない」と言い切るシーンは、めちゃくちゃ熱くてかっこいい。作中でも好きなシーンです。

断言はあまりにかっこいい。善吉しびれるぜ…
現実主義者に見える鏑木管理官にも、効率や成果より大事な正義や信念がある


人の良き友、ソフィア

どうしてもわたしの大好きな大阪ジェイルのくだりに呑まれてタイミングを失ってるけど、わたしは新キャラのソフィアがめちゃくちゃ好き。最初からひたすらに可愛く、とっても役に立つ主人公の新パートナー、それがソフィアです。
特にP5S初期メンの主人公、りゅーじ、モルガナとのイベントは多く、出会いはもちろん、沖縄ジェイルではりゅーじとモルガナが激しくソフィアを庇うシーンがあったりしました。わたしはこのメンバーがめちゃくちゃ好きで、この4人の絆を感じるイベントシーンがとても好きです。

初期メン、好きだ…

ソフィアの幼そうな喋り方やセリフがとても好きで、例えば作中よく言う「褒められた!」や、戦闘中の「ぶい!」なんかも可愛くて最高でした。特にソフィアの好きなところは、どんな些細なことでも欠かさずお礼を言うところ。りゅーじがトラウマルームのビリビリの役を買って出るとき、戦闘中に双葉がスキルを使ってくれるとき、ソフィアはありがとうとお礼を言うところ。そういう意地らしさがソフィアの魅力だなと思います。
ソフィアとの夏休みの満喫は非常にエモくて、ソフィアに海の中を見せたり花火を見せるシーンは可愛らしくも少し切なくて好きなシーンでした。P5本編のモルガナにも感じたことだけど、ソフィアはAIで現実世界ではスマホから出られず、他の仲間と同じように同じ時間を同じ場所で過ごせない。他の仲間に比べて、ソフィアという存在は常に別れの予感と隣り合わせの切ない関係だったように思えます。
そして、やっぱり最後に一ノ瀬とともにソフィアは旅に出てしまいます。とはいえ、確かに別れではあるけど、御涙頂戴な感じではなくいつかまた出会える予感のあるポジティブな別れだったことも、個人的にはP5Sという作品の良さだなと思いました。ソフィアは一ノ瀬と世界中を旅してたくさんのことを学んで、いつかまた怪盗団と再開する日がくるのだろう、そんなエンディングだったなと思います。

この発言時点で既にとんでもない有能さを感じさせるソフィア。店選びを率先するひとは神



エンディングに見える怪盗団の将来

P5Rの3学期と、P5Sはパラレルの関係になるということですが、どちらもエンディングの内容はほとんど一緒だったと考えています。それはつまり、「みんながそれぞれの人生を歩いていく」というものです。
P5Rの3学期ではビターさを出したいのか、それぞれが一人でバラバラの人生を歩いていくというのを強調した内容になっていました。
P5Sはエンディングで、善吉はもちろん愛する家族の元に、そして仕事に戻り、ソフィアは一ノ瀬と共に旅に出る決意をします。そして怪盗団は渋谷のど真ん中でバラバラに歩き出し、それぞれが別の人生を歩むことを示唆した晴れやかなムービーと、またいつか会おうという主旨の言葉で締め括られ、非常に爽やかでポジティブな演出となっています。結論は同じなのに3学期の印象と異なり、みんなバラバラの進路・人生を進むけど一人じゃない、またいつか会おう、といったメッセージを感じました。エンディングにも考え方の違いを感じさせられましたし、個人的にはやっぱりP5Sのシナリオ、エンディングの方が好みだなあと思いました。


ここで選んだ選択肢がプレイヤーの意志になりそう


ペルソナ5という物語

最後に、わたしはとにかくP5Sという作品を通してP5の物語が補完され、決着がついたことに大満足しています。大阪ジェイルの近衛とのやりとり、戦闘シーンの痛快さは、数年に一度味わうかどうかレベルの素晴らしい体験でした。とにかくcounter strikeのかっこよさと感動を他人と共有したい。
P5Sの良さはP5という傑作があってこその作品です。一方で、わたしにとってはP5SはP5の完結編とも思っています。それくらいに、シナリオの持つ意味が大きかったと感じているのです。だからぜひP5プレイヤーにはP5Sを遊んでもらいたい。そしてわたしとcounter strikeの熱さを語ってくれ…頼む…。そんな思いでいっぱいです。

P5S、良かった…(オタク顔)


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