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【選手記事】#6 稲熊海里 「与えられた役割を120%こなせばいい」

ピーファウルズの背番号「6」。稲熊が入団する2年前、稀代の「名代走」としてプロ通算739盗塁を記録した寺西雄大の引退時の背番号だ。ベンチも、ファンも、「6」の背中に絶大なる信頼を置いていた。接戦時の試合終盤には、必ずその名前を意識した。「寺西にあと少し打力があれば」とは、かつての監督たちは口を揃えて言ったが、これもまた一人の選手の存在価値である。そして、その「もしも」こそが、稲熊海里なのかもしれない。そういう期待の下、新たな時代の「6」が生まれた。

稲熊も、脚力はある方だった。しかし、それよりも自信があることがあった。

「自分の場合は、長打を確率良く打つことを目標にしていました。その中で、二塁打を三塁打にしたり、二塁からワンヒットで生還したりとかの走塁は意識していました。ただ、走力だけで売れる選手ではないと思ってましたね。」

稲熊の魅力は「長打」。これはドラフト同期の多々良も力説していたが、プロ入り時点で、同じプロが驚くパワーを持ち合わせていた。

「課題は打率でした。レギュラーになるまでは、ヒットが打てないと使ってはもらえない。打撃練習で調子が良くても、試合でヒットを打たないとダメだと思いました。あとは守備ですね。」

6年目のシーズンまで、稲熊の出場機会はたまのスタメンと代打がメイン。代走・守備固めでも試合に出場できる。試合に出場すれば、打席があるチャンスもある。「試合に出場すること」を貪欲に追い求めた。

転機は'31年。キャンプの段階から、チームは二塁手のレギュラーとして須藤佑哉を固定することを明言された。同じ二塁が本職の稲熊にとっては、さらに出場機会を制限されることとなる。

「すぐに他のポジションの練習をしました。あの年のキャンプは、間違いなく誰よりも練習した自信があります。その年に結果が出てなかったら、折れてたかもしれないですね(笑い)。」

猛練習の成果もあってか、それまでで最多の94試合に出場、9本塁打を記録。二塁手でのスタメンは全ての試合で須藤が担ったが、それ以外の内野3ポジションでスタメンを経験。「使い勝手の良さ」のアピールには十分だった。以降2年間も、一軍には必要不可欠な5人目の内野手となっている。

「他の選手に、『稲熊が控えてるから』という危機感を与えるのが今の自分のポジションです(笑い)。そういう心の余裕がありますね。自分は与えられた役割を120%こなせばいいだけなんで、と割り切れています。」

ベンチからの信頼の厚さが伺える。チーム一丸で闘う'34年シーズン。自信と、覚悟を持って挑む。

「もちろんスタメンで出たい気持ちは強く持ち続けています。誰の代わりでも、自分が務め上げてみせます。なんでもやります!」


【TIPS】チームメイトに聞きました。「稲熊 海里」ってどんな人?!

#16 須藤 佑哉(二塁手レギュラー)

「一番のライバルですかね。練習中とかシートノック中とかも、なにかと競ってくる。ちょっとミスするとすぐ突いてきますし、絶対負けたくないです(笑い)。」

#7 出崎 悠香(三塁手レギュラー)

「去年調子悪かったときに、一番親身になってくれたのが稲熊さんでした。二軍に行った時も、『絶対レギュラーを獲れるようになって戻って来い』って言ってもらったのも覚えてますし、活力になりました。」

#10 辛島 祐樹(遊撃手レギュラー)

「チームに必要なことを誰よりも理解してると思う。年下だけど、俺のコーチになってほしいもん(笑い)」


※この記事は9月3日にtelegraphで公開されたものと同じです。

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