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兵庫県稲美町兄弟死亡放火 家族の問題の果てに、犠牲になったのは幼い子供だった!

兵庫県稲美町で11月19日、住宅が全焼し、この家に暮らす小学生の兄弟が遺体で発見された。県警加古川署捜査本部は24日、殺人と現住建造物等放火の疑いで、同居していた伯父(51)を逮捕した。

 近所の住民らによると、全焼した住宅は松尾容疑者と、妹に当たる兄弟の母親の実家だった。同容疑者は長男で、もともとこの家に住んでいたが、15年ほど前に妹家族が移り住み、入れ替わるように大阪に引っ越した。生活に困窮し、24日に身柄を確保された大阪市北区の公園で路上生活することもあったという。
 数年前に体調を崩して実家に戻り、妹家族と計5人で同居。ただ、仕事はせず自室にこもりがちで、家族との接触もほとんどなかった。土地は同容疑者が相続しており、妹に「働きたくない。財産を全部譲るから生活保護の申請をしてほしい」と訴えたこともあった。
引用;時事ドットコム (jiji.com),2021/11/27

伯父は放火の理由を「(兄弟の)両親に精神的な苦痛を与えようと思い、大切にしている子供を狙った」と供述しているという。兄弟の両親である妹夫婦との間に何があったのかははっきりしていないが、その子供たちを惨たらしい事件に巻き込むなどお門違いも甚だしく、許しがたい犯行だ。

しかし一方で、以下のような報道もあった。

 捜査関係者らによると、松尾容疑者はしばしばライターやカッターナイフを持って家の中をうろついていたほか、大きな声や音に反応して自室でラジオを大音量で流したり、壁をたたいたりすることもあった。両親は兄弟が伯父と接触しないように気を配っていたという。
引用;読売新聞オンライン (yomiuri.co.jp),2021/11/26

容疑者は大阪にいた頃、西成の自立支援施設にいたり、路上生活を送ったりしていたという。さらに自宅内での様子、ましてやカッターやライターをしばしば持ち出すなどの行為は、「自傷他害の恐れ」に該当する。私が相談を受けていたら、間違いなく精神疾患を疑い、医療や福祉の支援を得るよう助言しただろう。

私の知り合いの精神科医が、「精神疾患に対する一般の人の認識は驚くほど低い」と話していたことがある。プロが見たら、精神科を受診するか、せめて保健所に相談に行くべき、と感じられる病状にあっても、家族にその認識がないことは、私も経験している。

精神疾患は誰でもかかりうる病気であり、国による啓蒙もそれなりになされている。しかし「実態」については、驚くほど知られていない。そこには、差別や偏見を恐れ、精神疾患を「聖域」として扱い、真実を教えてこなかった国やメディアの責任もある。

ここまで書いたところで、容疑者が以下のような供述をしているという記事が目に入った。

捜査関係者によると、準備される食事が気に入らなかったり、自宅内の移動を制限されていると思い込んだりして、一方的に不満を募らせていったという。県警加古川署捜査本部は、伯父が兄弟に対する殺意を持って火を放ったとみて調べている。
引用;神戸新聞NEXT,2021/12/2 

ここからも、容疑者が孤独を募らせ、被害妄想的になっていたことが見て取れる。妹夫婦は、公的機関に相談しなかったのだろうか。この容疑者の場合、生活保護の申請を希望していたものの、親から相続した土地があることや、妹夫婦と同居していることで、生活保護を受けられないと思っていたようだ。妹夫婦も同様に考えていたのか、容疑者に「働くように」と話していたという報道もあった。

妹夫婦は、子供たちと伯父が接しないように気を配って生活をしていたという。もし妹夫婦が、容疑者の心身に不調に目を向けて、保健所に相談したり、治療に結びつけるといったステップを踏んだりしていれば、福祉などのサービスも受けやすくなったはずだ。精神疾患への知識がないばかりに、そういった行動に至らなかったのだとしたら、本当に悔やまれてならない。

ひきこもり高齢化は限界点を突破している

ひきこもりの長期高齢化は、「7040」や「8050」として社会問題とされてきたが、最近は年齢がさらに上がり、「9060」とまで言われるようになった。それに加えて不景気やコロナ禍の打撃により、正直言って今の日本人に、「困っている人に手を貸す」空気は皆無だ。すべてが「自己責任」で片付けられてしまう。

働き盛り・子育てまっただ中の40~50代世代が、リストラや早期退職などによって職を失ったり、親の介護を理由に辞職したりして、その後、定職に就けなくなる事例も増えている。そうった、ひきこもりとしても失業者としてもカウントされない「ミッシングワーカー(消えた労働者)」は、推計で103万人にも登るといわれている。「中高年のひきこもり」は、決して他人事ではない。

いっそ両親が亡くなって身寄りもなく、遺産もなければ、生活保護など公的支援も受けやすい。しかしきょうだいがいて、なおかつ土地家屋が残されているような家庭では、それが揉め事の種にもなりやすい。「売却してお金に換えて、子供たちで分け合えばいいじゃないか」という指摘もあるが、このご時世、よほど立地条件の良い土地でもない限り、そう簡単に売れるものでもない。

私への相談事例で言えば、親が本人の資質も考えずに、「土地や家は長男が継ぐ物だ」という思考のもと、身の丈以上の財産を残したばかりに、厄介なトラブルを抱えているきょうだいもいる

精神疾患やひきこもり、リストラ等の理由から、仕事も住居も失った当事者がきょうだいに助けを求めてきたときに、きょうだいにも、本人に適切な治療や支援を受けさせたり、生活の場を用意したりする余裕がなければ、いびつな関係のまま一つ屋根の下で同居するしかない。兵庫県稲美町の事件のようなケースは、今後も増えていくだろう。

近年の社会情勢もあり、孤独に追い込まれた人間が自暴自棄になるスピードは、いつになく早まっているのを感じる。とくに当事者が中高年のケースでは、親が倒れたり亡くなったりすることで頼みの綱を失い、経済的なことも含めて一気に不安が押し寄せる。表面的には平静に見えたとしても、当事者の心のうちは、家族や周囲の人間が想像するよりずっと荒れていると思ったほうがいい。

口を酸っぱくしていっておきたい。「事件」はあまりにも身近になった。孤独を舐めてはいけない。公的機関に相談したところでなかなか動いてもらえない現実があることは、私も身に染みて知っている。しかしそれでも昨今の事件を見ていると、「公的機関や医療機関に相談し、迅速に動くことで、少なくとも目の前の命の危機は脱せたはず」という事例は、少なくない。今、身近でそのような問題を抱えている人には、どうか現実を甘く見ずに、命を守るための行動をとってほしい。

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