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札幌ススキノの頭部切断事件からみる、日本の現状

札幌ススキノの頭部切断事件。瑠奈被告の死体への異常な執着はさすがに予想を超えていたが、親と子の力関係が逆転し、子供の違法行為すら増長させるパターンは、漫画『「子供を殺してください」という親たち』でも繰り返し描いてきた。

精神疾患の発症には遺伝や社会環境などさまざまな要素があるが、成人した際に社会適応して生活できるかどうかは、家庭環境によるところが大きい。端的に言えば、①親の社会的地位などによる子への抑圧②金や物を過剰に与えるなど、ピントのずれた甘やかし③早い段階で医療や警察への相談をしていない(世間体を優先する)などは、どの家庭も共通事項としてある。『「子供を殺してください」という親たち』1巻のケース1などまさにそれだ。ちなみにケース1には当事者が飼い猫を殺害するシーンがあり、読者から不評をかっている。しかし漫画に描くのを控えているだけで、実際には、もっとおぞましいことも起きている。

ススキノ事件の話に戻るが、報道を読む限り、娘の瑠奈被告はかつて多重人格や統合失調症と診断されたことがあり、事件前には、両親はこのままでは娘が人を殺すだろうと予見できていた。医療につなげるなど、両親の対応で止める方法はあったのだろうか? 精神科医療の現状をいえば、2014年の精神保健福祉法(以下、法)の改正で保護者制度が廃止され、病識のない対応困難な患者ほど、医療保護入院(家族等の同意による入院)はできなくなっている。

両親が保健所に実態をすべて伝えて相談していれば、警察官通報による措置入院が検討された事案だったはずだ。しかし仮に入院できても短期間であり、親が子供との関係性含め、どこまで向き合えるかにかかっている。ちなみに警察官通報(第23条)の条文には、その対象を「精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者」としているが、「犯罪の予見性があるから」という理由では、精神科への入院はさせてもらえない。

とくに、サイコパス・反社会性パーソナリティ障害など「精神病質」については、2022年の法改正により、精神障害者の定義(法第5条)から削除されている。相模原障害者施設殺傷事件や京アニ事件も根底にあるのは同じだが、治療効果を出すのが難しい精神疾患患者の受け皿は、これまで精神科病院が「長期入院」という形で担っていた。しかしそれが果たせない今、事件が起きてから(犠牲者や被害者あって)の医療観察法か、もしくは地域共生の名のもと、地域で受け止めるしかない。

今の日本では、もっとも難しい問題(=人命にかかわるような問題)ほど、専門機関や専門家が「介入しなくてよい」根拠ばかりがある。つまり、「家族のことは家族で。地域のことは地域で解決せよ」というのが国の方針だ。その中で、地域住民に権限を持たせるなら、「誰が」中心となってその役割を担うのか。また、個人情報保護法などの壁をどう乗り越えるのか。私自身も地域住民の一人として、究極の難問を突き付けられている。

法律上からも排除され、行き場のない当事者を抱える家族もまた、干上がっている。ススキノ事件の被告の一人でもある父親は、皮肉にもそういった日本の精神保健福祉行政の現状を知り尽くした精神科医だった。この両親がとった行動は、現実を映した一つの答えであるといえる。


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