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【エッセイ】そうして出来上がったまずいチーズリゾットを食べながら

えらい早起きをすることがある。
今日もそうだった。日付を跨いだくらいに眠りに落ちて、午前3時にすっきりと目が覚めてしまった。

覚める──そういえば、小学生の時に赤川次郎の『夢から醒めた夢』を愛読してたから同訓異義語のテストで「夢からサメル」の答えを頑なに「醒める」にしてたな。正解は「覚める」なのに。イキってたな。
というか「覚醒剤」って「さめるさめる剤」ってこと?やべえ薬だなやっぱ。

いや、そんなことは置いといて。

ロングスリーパーの私が3時間そこらの睡眠ですっきり起きるなんて本当に稀有なことで。
でも、割と定期的にそんな「奇跡の朝」は訪れる。
今朝も「奇跡の朝」だった。
すっきりと目が覚めた後、すぐには体を起こさずしばらく布団の上で抵抗してみる。
それでもう一回眠りにつけたら御の字だ。
でも大抵、そういう時ってもうテコでも寝付けない。
やがて私は寝ることを諦めて、ぽっかりと空いた朝の時間を何に充てるか考える。
人によってはランニングしたり、ニュースを読んだり、読書したりするのだろう。
しかし私は専ら、そんな朝は豪華な朝ごはんのことばかり考えてしまう。

いつもは質素な朝ごはんを食べている。
毎日毎日、親が炊いたご飯を茶碗によそい、冷蔵庫から取り出した無数の魚の死体(じゃこ)をその上に乗せ、口で命を噛みしめて、それを即席の味噌汁で胃の中に流し込む。
10分もあれば終了するモーニングだ。

しかし早起きした朝はなんせ時間がある。
私は大好きな「食事」という行為に懸想した。

前回の「奇跡の朝」にはホットケーキを焼いた。
分厚くてもちもちふかふかのホットケーキを、何枚も何枚も。
いざ食べる段になって冷蔵庫にバターもジャムも見当たらなくて、そうこうしているうちに冷めきってしまったホットケーキをプレーンな状態でもそもそ食べたっていう悲しいオチだったけれども。

さあて、今日はどんな朝にしようか。
さっさと支度をして、電車で都心に向かってカフェでモーニング、ってのも粋だな。
そういえば、社会人になってからそんな優雅な朝を迎えていない。
サクサクのクロワッサンに、甘いラテ。ベーグルなんかもいいな。朝からケーキもありかも。
そこまで考えたところではたと気づく。
私、今月お金使いすぎて素寒貧なんだった。次のカードの引き落とし日に思いを馳せて、体感温度が少し下がった。自然クーラーじゃんこれ。SDGsじゃん。私の資産は持続可能からはほど遠いけれども。
しょうがない、家で優雅なモーニングを錬成せねば。
体を起こして、周囲で寝息を立てている家族を起こさないように静かに階段を降りる。

まずは身支度から。
顔を洗って顔にメイクを施す。
「七難隠す」って言葉あるけど、私にとってメイクは武装なんだよね。
隠してるっていうより、補強、みたいな。いやこれ書いてて自分でも何言ってるのかわかんなくなってくるけど、うーん、やっぱり言葉のニュアンスが違うなって思ってて。
あ、そうそう、コンプレックスを隠すっていうより、自分の好きなところを強調するのが私のメイク。
アメリカの教育姿勢みたいで素晴らしいでしょ?

今日はCANMAKEのブラウンのアイシャドー。
このアイシャドー、人生で初めて買ったものなんだよね。
物持ちが恐ろしく良い。
普段ブラウンメイクなんて滅多にしなくなってたけど、たまには初心に帰りたくなって。
昔は恐る恐る瞼に乗せてたアイシャドーも、今は手慣れた手つきでべ!べ!って塗りたくれる。
うん、悪くない。75点くらい。

そこまでやって私はようやく、キッチンに立った。
作りたいものはメイクをしながら決心してた。
玉ねぎとベーコンのチーズリゾット。
目標は、お姉ちゃんが気まぐれで作ってくれる美味しいリゾットの再現。
作ってるところは何度も見ていたから、材料と手順はわかってる。
冷蔵庫をいそいそと漁る。
そうそう、うち、冷蔵庫が2台あるの。割とでっかいやつが2台。
小さいころからずっとそうだったから、なんも不思議に思わなかったけれど。
ドラマとかCMで冷蔵庫が1台しかなくてびっくりした。
たしかに5人家族ってのを差し引いても、余裕がある方だと思う。
でも2台ともパンッパンなんだよね。5人ともよく食べるから。
そりゃエンゲル係数バカ高いわけだわ。
そのミチミチの冷蔵庫から使いかけの玉ねぎと、ばあちゃんが買ってきた高級ベーコンを引っ張り出す。
それでその材料たちをしゃかしゃか切っていく。雑なのは致し方ない。
どうせ私の胃液でぐちゃぐちゃになる。
フライパンにオリーブオイルを少し垂らして、フライパンをあっためたら材料をまな板から、こう、ざざざーって。
んで良い感じになったらチンした昨日の残りの白米をイン。
焦げ目が付くかつかないかくらいでチーズと牛乳をざかざか入れて、粗めのコショウをばばっと振る。
そんでなんか、やっぱ特別な朝だから、良い感じの皿を食器棚から引っ張り出して、そこにもこもこ出来上がったリゾットを盛る。
猫舌ですぐには食べれないから、冷ましてるうちにフライパンとか洗っちゃうのが大事。

洗い物が終わって、ようやく食卓に腰を下ろした。
シンと静まり返る空気。
私は嫌いじゃないけど、なんか寂しい。
いや目の前にテレビあるんだけどね。
最近気づいたのだけれど、私、テレビ嫌いみたい。
ニュースもドラマも、感情が引っ張られて疲れるんだ。
音楽番組とかお笑いならまあ見れるんだけど、早朝ってそんな番組ないじゃん。
しょうがないから、youtubeを開いた。
最近チャンネル整理をして、今は数件だけチャンネル登録してる。
お気に入りはポインティとGENの本棚食堂と松尾のアニメ。
どれも無心で見れるし、心がマイナスに引っ張られないから好き。
適当に動画を開いて再生する。
スマホがチャカポコ音を立て始めて、リビングはちょっとだけ明るくなった。
真っ暗なテレビ画面の上にかかる時計を見やる。
これを食べ終わっても、出勤まで時間はかなりある。
久々にnoteでも書くかあ。
早起きして手の込んだ朝ごはんを作って、好きな文字書きをする。
そんな朝から始まる月曜日も、まあ、悪くないよね。

よし、いただきます。


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