3/22 小説を「選んで」書いて欲しい

Twitterとかで、定期的に小説の同人誌は需要がないとか、小説は売れないだとか、小説より漫画の方が偉いだとか、そういう話題が持ち上がっているのを見かける。
個人的には小説の二次創作の方が好きだし、自分でも小説を書いたりするので、全然共感しないのだけれど、そもそもなぜ作品の形態の好み、についての話題が、二次創作という畑に行った途端にこんなに大袈裟に騒がれるのか、ちょっと不思議だ。
単に「小説を読むより、漫画を読む方が好き」という嗜好の話だったら、それ自体にいいも悪いも、偉いもなにもないだろう。
それが、自分が作り手になって、しかもある種、他人の反応も意識しているので、なんか話がややこしく、大きくなってしまうのかもしれない。

何かを作る時のモチベーションが、自分の外側にあるとなかなか辛いものがあると思う(多くの人に読まれて欲しい、たくさんの人の評価が欲しい、とか)。気持ちも勿論わかるけれど。
私は、自分の読みたいものは自分で書くしかないか…というモチベーションで書くので、そりゃあ感想頂けたら嬉しいけれど、別に最悪公開しなくてもいい。自分のためだけの独りよがり創作だ。私はもう、勝手に自分がかきたいからかいているから、他人なんて全く全然関係ない。
ただ、もちろんみんながそうじゃないことも知っているし、そうある必要はないとも思う。他人からの感想とか、評価をモチベーションに制作しても別にいいんだ。多分問題はそこじゃない。

小説の同人誌が需要がない、という話を出してくるのは、だいたい小説を書いてる人だ。
多分、自分が期待していた反応に、実際の反応が満たなかったのだと思う。周りからみて、どんなに評価されてるな、と思っても、本人がそれに満足してなければ、ダメなのだ。多分。
実際、ジャンルによっては小説の方が需要がない、という事態は普通にあることだと思う。
それは二次創作がどうのこうのじゃなくて、単純に「小説」という形態の娯楽を楽しむ層が少ないということだ。
年齢で区切るのは横暴かもしれないけれど、それでも多分、中高生くらいだと、小説よりも漫画の方が身近だし、読みやすくて、面白い娯楽なんじゃないだろうか。(ちなみに歳を取ると、漫画の膨大な情報量を処理しずらくなってくる、という悲しい老化現象が起こるので、むしろ小説の方が読みやすかったりする気がする。いや、もちろん人によりけりだけれど)

ただ、そういう「需要の差」はもちろんあって、その上で、それでも小説を書くならば、小説という形態にしかできない表現を選べばいい。自ら小説、を選んでない、という点が、多分一番問題なのだ。私は普段小説を書いたりしているけれど、漫画じゃなくて小説なのも、書きたいものの表現には小説の手法の方が適していると思うからであって、この表現は漫画の方がいいよな、と思ったら漫画を書くと思う。(大学時代は実際、漫画もどきの方がよく描いていた気がする。美大だったので、周りも絵をよく描いていたしね。)
自分で、あえて、小説を選んでいないから、だから、そもそも畑のちがう娯楽の形態、それ自体を比較してしまうことになる気がする。

もしかしたら、実際のところ、本当は漫画が描きたかったのかもしれない。でも、漫画が描けないから、小説を書いていたのかもしれない。でも、そうだとしたらちょっと悲しくないですか。

だって小説を書くのって、かなり大変な作業だ。漫画はまず、絵が描ける、描けない、でわかりやすくその難しさが示されるから、ハードルを感じてしまいやすくなるのかもしれないけれど、小説だって実はかなり高度なことをやっている。
みんな日本語はある程度書けるかもしれないけれど、それを相手に過不足なく伝えることの大変さったらない。
ただの事務的な報告書だって、なかなか適切に伝えるのって難しいのに、小説だなんて!
作者の頭の中にしかない世界、情景、お話を、会ったこともない誰かにわかるように、追体験させるように、伝えないといけないのだ。
もちろんそれは漫画だってそうだけれど、伝達方法が全然違うから、それぞれに、できることとできないことがある。
小説の場合だったら、やっぱり「正確に伝える」ことは、漫画より難しいだろう。
絵で描けば一瞬で伝わる情報を、何行も何行もかけて、たくさんの言葉の中から適切な一言を選んで、適切な順序で伝えなければいけない。
でもそこまでしても、そこに描かれた情景を、どのように想像するのか、は読者頼みだ。
本筋を邪魔せず、適度な文量で、適切な語彙で、ちょうどいいリズム感で、何もないところに情景を立ち上げつつ、話を展開する難しさよ!

ただ、読者頼みだからできること、もいっぱいあって、わかりやすい所だったら、叙述トリックなんかその最たるものだと思う。
あと、めっちゃ便利なこともたくさんある。例えば「綺麗な人」と一言書くだけで、読んだ人それぞれの「綺麗な人」を描写できたりする。これが漫画とかイラストだったら、自分なりにめっちゃ「綺麗な人」を描いたとして、作品世界の中で「うわー美人!」なんて周りに言わせたとして、それでも読者の好みとズレてたら「綺麗な人かなぁ?」になってしまったり。
具体的に、瞬間的に伝えられる絵と、抽象的で時間的な順序が必要な小説は、そもそも情報の伝達方法が違うのだ。

だから、「小説は売れなくて、漫画の方が売れる!」とか、そんな悲しい話をするより、小説を書いてる人にはもっと自信持って欲しいな。すごいことやってるのだ。
そうして、そもそも漫画でできることと、小説でできることは違うのだから、消去法じゃなくて、小説を自ら「選んで」、楽しく書いてくれたらいいな。
私も、もっといろんな小説を読みたいし。

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