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プランクトンになりたかった

子供の頃って、「将来の夢」を書かされがちだ。
私はその度に違うことを書いていた気がする。お花屋さん、ケーキ屋さん、お医者さん、絵描きさん……エトセトラ。

小さい頃の「将来の夢」は、「イルカ」とか「ヒーロー」とかかいても許されるけれど、いつからかそれは、「将来就きたい職業」のことになっていた。
「将来就きたい職業」って言われると途端に難しい。
小さな頃、劇団に通っていたこともあったけれど、役者になりたいわけじゃなかった。「将来の夢」が決められないなら、色々なものになれる役者になったらいいんじゃないかと思ったのだ。けれど結局それも数年で辞めてしまった。
そうして、結局いつまでたっても「将来の夢」は見つからなかった。

小学生の頃、テレビで植物プランクトンの生態について解説していた。海の中、大きな魚は小さな魚を食べて、小さな魚は植物プランクトンを食べるのだという。そうして食物連鎖の基礎になる植物プランクトン自身は、光合成で生きている。
私はそれをいいな。と思った。羨ましかった。
「将来の夢」には書けないけれど、私は本当は、植物プランクトンになりたかった。今でもなりたい。
ふよふよと海を漂うプランクトンは、他の何ものをも害さずに、ただ、他の生物の命の源になるらしい。それはなんだかとても素晴らしいことのように思えた。私はあの無数のプランクトンの一つになりたいと思った。
生きているだけで、他の誰かを傷つけたり、他の何かを台無しにするような人間でいるより、プランクトンの方がいい、とずっとずっと思っていたのだ。

そうして結局私は「将来の夢」なんて持てないまま大人になって、そうしてなんとなく仕事をしている。けれど、やっぱりふと、プランクトンになりたくなる時があるのだ。
青い海の中を漂って、そうして魚に食べられる。それだけで完結したい。誰かを傷つけることもなく、もしかしたらちょっとだけ喜ばれて、でもすぐに忘れられる。そんな存在。それって、なんだかすごく幸福な気がして。
私はそんな甘ったれた妄想を、ずっと、捨てられないままなのだ。

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