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兎、波を走る※ネタバレ有り&長文です

8月9日、大阪新歌舞伎座にて「兎、波を走る」念願の観劇。
私の兎波初観劇にして千穐楽
そして夢のマチソワ。
これから書く感想や解釈は僅か2回しか見られてないので頓珍漢な事もあるかと思いますが何卒ご容赦を。

ネタバレを極力踏まず、でも完璧に排除してた訳ではないのでちょこちょこ軽い物は踏んでしまっていたのですが、少女が居なくなってその少女を探す母親の話しって言う事で勝手に別の事件がテーマなのかなあってぼんやり思ってたら全然違うテーマで。

風化してはいけない事件。
北朝鮮拉致被害。
私の住んでる所もいわゆる日本海側なので認定されてるだけだけど1名被害者の方が居らして今でも折に触れご家族のインタビューがニュースに流れたりはしている事件。

最初のシーンの一生さんの登場から息を呑んだプロローグ。
もうそこから舞台上の一生さんから目が離せなくなる。
去年も思ったけれど映像のお芝居も素晴らしいけれど、板の上ではより一層光り輝く俳優「高橋一生」であるなあと改めて思う。

そして紙に映った脱兎の姿として一生さんが登場すると言う以外な演出にも驚かされる

一生さんが演じるのは最初は名前のない「脱兎」
脱兎は懐中時計をお返しに上がったと言い残し舞台は廃墟と化した遊園地に移る。
「何を言ってるかわからなーい」と叫ぶ元女優の「ヤネフスマヤ」
基本的にこの遊園地のシーンは半分コメディの様にお話しが進んだと思う。
特に秋山菜津子さん、大倉孝二さん、大鶴佐助さん、そして脚本・演出・ご出演の野田秀樹さん。
4人の軽妙な台詞の応酬が素晴らしい。

そこに一生さんの「脱兎」と松たか子さんの「アリスの母」が加わる。
基本脱兎はアリスの母以外には姿が見えていない。(それが今後物語の鍵になる)
脱兎は「もうそうするしかない国」から逃げて来たと言う。
最初の設定は実験の為に生育された実験動物
でもそれにしては「酷い事もして来た」と言う。
それも物語の悲しいエピローグに繋がるんだけど兎に角ここでは名前もない「脱兎」

脱兎の一生さんとアリスの母である松さんとのやり取りがこの後随所に登場してその度に私の心は激しく揺れ動く。
そしてアリスの多部未華子さんはどこまでもキュート。
最後のシーンで13歳の少女に戻るシーンは心から切なかった。

「フェイクスピア」もリアルでニュースを見ていた世代の自分は色々思い出して辛かったけど、今回のモチーフの事件もちょっと私よりお姉さんの横田さんの拉致のニュースは発覚してからずっと見て来ていたニュースだったので、早くお家に帰してあげてとずっと心から願っていた。

脱兎は最終的には北朝鮮拉致工作員、安明進と名乗り、自分はアリス(横田めぐみさん)が兎の仲間(北朝鮮拉致工作員)に連れ去られた所を見たとアリスの母(めぐみさんのお母様)に告白。
劇中では兎を見てしまうと連れ去られてしまうと言う演出になっていた。

そして安明進は一緒に連れて行ってと懇願するアリスを置いて亡命。
最後は自分も捕らえられ連行されてその後一発の銃声?が聞こえて横たわる兎の死屍に。

実際の安さんは亡命先で行方不明になり多分殺害されているのでは?とウキペディアに書いてあった。
北朝鮮の真実を伝え続けて息絶えたのだろうか?

ラストで多部未華子さん演じるアリスが友達と別れ拉致されるシーンに胸が締め付けられる。
船底で「おかーさーん!」と泣き叫び何日も独りぼっちだった13歳の少女。
どんなにか心細く悲しかった事だろう。
「フェイクスピア」では事故でパイロットである父に先立たれた幼な子の楽の悲しみは老人になるまで昇華する事が無かったけれど、父親の霊に背中を押されて生きる勇気を見出せた。
でもこの「兎、波を走る」の母と娘はまだ今も現実の世界で抱き合う事も出来ず離れ離れだ。

深く悲しい現実なのだ。

最後まで聞いてとお願いしたのにと言うアリスの母の言葉は、現代の大きな事件が起こる度に飛びついてその事件をまるでサスペンス劇場を見るように消費しそして簡単に忘れ去ってしまう私達大衆に向けられた言葉の様に思う。

廃墟になった遊園地で繰り広げられた現(うつつ)の国ともうそう(妄想)するしかない国の物語は「不思議の国のアリス」と「ピーターパン」と「ピノキオ」と言うお伽話と実際に起きた事件(北朝鮮拉致問題)を実に上手く組み合わせた素晴らしい舞台だった。

野田秀樹さんの舞台は実際にあった事柄をいつも「忘れてはいけないよ」と私に教えてくれている。
「フェイクスピア」に続き高橋一生さんにとって2回目NODAMAP作品への参加はきっとご本人にとって最高に幸せな時間なのだろうなあと心から思います。

そして最後に1日も早い拉致問題解決を祈って。

P・S 博多座の大千穐楽までどうか何事も無く、高橋一生さん、松たか子さん、多部未華子さん、野田秀樹さん、はじめオールキャスト、スタッフの皆様が走り抜けられます様に。

拙い文章読んで頂きありがとうございました。

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