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君はスポットライトの中にいたことがあるか

私は平凡な人間だ。
普通の田舎に生まれ、小中高を公立校で過ごし、家から一番近い大学で特筆することもない成績で卒業した。

運だけはよいらしく、浪人も留年も無職もないが、田んぼの間の農道を歩くようなそんなドラマにもならないような平穏な毎日だ。
なので、「スポットライト」など無縁だ。

卑下しているわけではない。
平凡は見方を変えれば幸せの山はないが不幸の谷もないので、一定して落ち着いたいい日々だ。
もともと人に注目されるのは苦手だ。
注目はろくなことがない。
そもそも人の評価なんてあいまいなもの。今日褒めたと思ったら、明日は地に叩きつけるほどの悪態をつく。
気分、タイミング、自分の立ち位置、etc、その重なりで変わっていく。
そんな不安定なものに振り回されるのは嫌だ。
平凡は末長い薄い幸せだと思う。

そんな私が生涯で一度だけスポットライトを浴びたことがある。
抽象的な意味ではなく、物理的な意味でだ。
物理的にステージの上に立って、物理的にスポットライトの光を照射されたのだ。

それは高校の演劇コンクールのリハーサルのことだった。
注目されたくないくせに、高校のときは友人の懇願で演劇部に所属していた。
にわか部員なので台詞のない役を与えられ、その実、鋸が引けるという理由で大道具っぽいことをメインでしている「スタッフロールに何て書けばいいんだろう」と悩みそうな立ち位置だった。(平凡なのに器用だとこういう立ち位置になることが往々にしてある。)
リハーサル中のステージはカオスだった。
それぞれが初めて立つ本番のステージ上で確認作業に右往左往していた。

突然マイクが入って頭上から声がした。
「誰か、ステージの真ん中に立って!」
それっぽい場所にたまたま立っていた私は顔を上げた。その瞬間だった。
急に光が降ってきて、周りの景色が一瞬で消えてしまった。何が起きたのか理解するのが遅れたが、それがスポットライトだった。
スポットライトを浴びて理解した。

そうか、この瞬間が人をスターに向かわせるのか。

「はい、OK」
あっという間にテストは終わったらしく光は消えた。
一瞬だったが私の中の何かを確実に変えていた。
心の奥底にある小さなスイッチをひとつONにしたような、そんな感覚だった。

スイッチがONになったからといって、スターを目指そうと思ったわけではない。
ただ、スイッチがONになったことで人の半歩前に出ることが「怖いこと」ではなく「ちょっとワクワクすること」に変わっただけだ。
今でもそのスイッチは切れない。

平凡だけど、それを楽しんでいる。

伝わるかな?

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