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共編著『アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』が刊行されました

 上岡磨奈さん、中村香住さんとの共編著『アイドルについて葛藤しながら考えてみた――ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』(青弓社)が刊行されました。

 各章の執筆は編者3人のほか筒井晴香さん、いなだ易さん、DJ泡沫さん、金巻ともこさん、田島悠来さん、松本友也さんに担当していただきました。執筆者それぞれの問題関心やアプローチを持ち寄っていただき、「アイドル」と呼ばれる芸能カテゴリーの範疇およびその周辺にまつわる悩ましさや問題性を、いろいろな視野から捉える一冊になったと思います。

 アイドルという芸能カテゴリーは今日、演者や各クリエイターや受け手たちがそれぞれに、きわめて雑多で豊かな可能性を投じるための〈場〉として存在しています。その範囲や裾野がどこまでなのかは容易に捉えがたく、しかしその広がりゆえに各々がなにがしかの活路なり愛着なりを見出しながら、その〈場〉につどうことができる。
 けれどもまた、アイドルというこの〈場〉は慢性的に多くの難点を抱え込んだまま、主役であるはずのアイドル当人にその歪みを押しつけながら歴史を紡いで現在に至っています。だからこそ、アイドルという文化に可能性や愛着を感じつつも、複雑な気持ちや悩ましさを持て余している人は多いのではないかと思います。

 では、そうした悩ましさを前にして、「アイドル」に愛着を持った人々はどのように在ればよいのだろうか。明快な答えなど簡単に出せるわけはありませんが、まずは問題の所在の整理、あるいは如何ともしがたい葛藤のありようを、できるだけ言葉にしてみるところから始められればと思います。

 このあたりの基本姿勢は本書の「はじめに」に記しました。書籍の情報ページの書影下にある「試し読み」からどうぞ。

❝もちろん、このジャンルが抱えるいびつさについての批判がおこなわれてこなかったわけではありません。ときにファンダムの外側からなされる客観的な批判は、その直截さゆえにクリティカルで、大筋の方向性としてきわめて重要な視点を投げかけてきました。同時にまた、その歯切れのよい議論は、それ自体が「アイドル」へのステレオタイプなイメージをない交ぜにしたものであることもしばしばあり、その迷いのない言葉を前にして、居心地悪く口ごもることも少なくありません。
けれども、その問いを己のものとして引き受け、精緻にしていくのはファンダムの側の役割でしょうし、そうした批判的な捉え返しはアイドルというジャンルの可能性を信じようとする営為のためにこそあるはずです。❞
(「はじめに」より)

 出版社HP等に記載の説明文には、「手放しの肯定でも粗雑な否定でもなく」という一節もありますが、ジャンルが抱える問題性に無頓着なまま賛美を謳うのでも、ジャンルに対して大雑把に否定を投じるのでもなく、それらを架橋したところに、もう少しベターな土壌をつくれないかなと考えています。
 建設的に議論が積み重ねられていくためには、そうした思索や整理の過程を、参照しやすいものとして残しておくことが大事だと思いますし、本書がその一助になれば幸いです。

 装画は大津萌乃さん、デザインはMalpu Design清水良洋さん。制作中に出していただいていた装画別案もまた素晴らしかったので、そちらもぜひ見ていただければと。

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本書の中で、私は「はじめに」および第1章「絶えざるまなざしのなかで――アイドルをめぐるメディア環境と日常的営為の意味」を執筆しました。


 第1章では、アイドルが常に眼差しを向けられるメディア環境に置かれるなかで、受け手の理想や欲求がしばしば理不尽に投じられ、不当にスティグマさえ押しつけられてゆくこと、一方でアイドルもまた「見られる」客体としてのみ在るわけではなく、「見られる」存在であることを自覚するゆえに、そうした眼差しへの捉え返しの実践を行なっていること、その双方を視野に入れつつの議論をしています。

 以下は香月担当章のサブテキスト的に。
 本書を準備していた今春頃に起きた事象も、具体的にふれてはいませんが第1章では少なからず視野に入れて執筆しています。

 たとえば乃木坂46の新メンバーをめぐる中傷が巻き起こっていた時期に書いたエントリ

 あるいは乃木坂46メンバーがエイプリルフールに合わせてInstagramに投稿した内容が問題視された折に書いたエントリ

 などは、個人的な思索を記したものではありますが、本書収録の論考といくらかリンクしつつ、また角度の異なる葛藤の記録になっているかなと思います。

 また、いわゆる「恋愛禁止」や異性愛規範の問い直しについては、本書の私の担当章ではあまり扱っていませんが、数年前に書いた以下の記事を参照いただければと。

 異性愛規範および「恋愛禁止」をいかに問い直すかについては、もう少しまとまった別論考をいま準備しているところなので、遠からず世に出るのではないかなと思います。

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 刊行からほどなくして増刷も決まりまして、さらに広く届けてゆければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

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