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『空飛ぶストレート』 #ショートショートnote杯 応募作品

僕のキャッチボールの相手は爺ちゃんだった。
「思い切って投げぃ」
僕にだけグローブを買い与え、爺ちゃんはいつも素手で受け止める。
どんなボールも。
硬式の球を使うようになってもそれは変わらなかった。
「悩んだ時はまっつぐ。お前のまっつぐは伸びが違うよて」
爺ちゃんの口癖だった。

高2の夏、肩を壊して野球を辞めた。
僕以上に爺ちゃんが落ち込んでしまい、持病が再発した。
そしてあっけなく逝った。

葬儀の日、僕は抜け出して河川敷にいた。
思い出の地にボールを埋めて区切りを付けようと。
不意に風が吹き、声がした。
「まっつぐを投げぃ」

僕は思い切り振りかぶり、受け手の居ない場所へボールを投げた。
白球はぐんぐん加速し、ホップしたかと思うとそのまま大空へ舞い上がり、太陽と重なって消えた。

式に戻ると今まさに出棺の時。
最期のお別れをしようと爺ちゃんを見た。
その手に、ボールがしっかと握られていた。  <了>


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※以下のコンテストへの応募作品です。


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