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オリジュネへの憧れ

生八つ橋はお好きだろうか。
あんこを求肥で挟んだ京都名物のアレである。どこの土産物とも同じように、土地の人間が普段食べているわけでもないのに代表面をしているアレだ。

一昔前の京都タワーの土産物コーナーには、生八ツ橋会社の社長がガールズバーで呑んだくれている時におねーちゃんに意見を聴きながら雑に考えたと思わせるようなフレーバーの八ツ橋が所狭しと並べられていた。ラムネ味だのスイカ味だのミルクティー味だの、強すぎる個性で一番大事であろう求肥の味わいを全力で殺しにいっている。生八ツ橋も個性の時代なのである。

そのように明後日の方向に群雄割拠する生八ツ橋業界の中でひときわ異彩を放つのが聖護院八ツ橋だ。中にハバネロやらチャーシューやらといった絶対似合いそうにないものを入れて一見客を誘うような偏差値の低いことはしない。なんと、この生八ツ橋にはオリジュネが入っている。

ここの生八ツ橋は土産物ようなのできちんとした箱に入っている。そして、その箱の中には同人イベントで小説のサークルを訪れた際に置かれているようなA5サイズ程度のSSペーパーが収められているのだ。

読んでいただければお分かりいただけるであろう。ネットでよく流れているような生半可なレベルではない。格調高い豊かな語彙に、丁寧に編み込まれたような表現技法。これは使い古された言い方だが、プロの犯行というやつである。

主人公とその友人の松村はおそらくは京都大学の学生である。パッとするわけでもないが、どこか人を惹きつける所のある文学青年である主人公とシニカルな医学部の松村。非常に美味である。

ツイッターでよく調べてみると、こんなツイートを見つけた。

このツイートによれば、ペーパーは聖護院八ツ橋本店ご令嬢の筆によるものとのことだ。このツイートを見た時に思った。俺たちはとんでもねえ尊脈(尊みの金脈)をみすみす見逃しているのではないかと。素人の女性、美しい文体、耽美、ここから導き出される結論は……オリジュネだ!!!

もしかしたら、オリジュネにはこのご令嬢のようなモンスター級の巨匠がウゴウゴと溢れているのかもしれないと私は考えたのだ。ふと、同人イベント会場(インテックス大阪)でオリジュネ島にいた方々のことを思い出す。他の島と年齢層がふた回りほど高めで面構えが明らかに違う歴戦のツワモノばかりだ。長年書いていれば、言葉の扱いにも長けてくるというものである。

しかし、同人イベント会場(インテックス大阪)の私は彼女たちの気迫に負けてしまった。本を購入するでもなく、ペーパーをいただくでもなく、そうそうとFGO島のぐだ男受け本を買いに急いでしまったのだ。とんでもねえ尊脈をみすみす逃してしまっていたのである。いや、ぐだ男ちゃんは可愛い。

結局、なんと惜しいことをしたものかと私は悔やむことになってしまったのだ。次回のイベント時には必ずやオリジュネを求めに行くのだと私は固く誓うのである。

今日も私は生八ツ橋の箱を開けて、松村に会いに行く。

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