見出し画像

"21世紀" の写真集

雑誌Penからの依頼で、21世紀、つまり2000年以降に刊行された写真集でオススメの3冊を選ばせてもらった。21世紀という言葉の響きには、昭和生まれの私は、いまだに未来のイメージを感じてしまうのだけど、よく考えてみるともう20年もの時間の束だ。その間に作られた写真集の数も膨大なので、単純に良い写真集だと選び切れない。そこで「21世紀のIssue」というテーマでセレクトすることにした。

画像5

1冊目は野村佐紀子の「Ango」。史学科卒の自分がまず考えてしまうのが「戦争・テロ」の問題。町口覚さんが2015年のパリ同時多発テロに遭遇したときに強く感じた戦争への危機感を、盟友である佐紀子さんとタッグを組んで作った一冊。(町口さんと佐紀子さんは「大連」という共通のキーワードでも繋がっているのだけど、それは同書のあとがきを読んでもらいたい)改めてみると、メールヌード で有名な佐紀子さんの撮る女性がやはり魅力的だなと思う。8月15日発売というのも町口さんのメッセージだ。そして2017年の今日、POETIC SCAPEでの野村佐紀子展「ANGO」をスタートさせた。ちょうど3年前か。

画像3

次はスウェーデンの写真家、モルテン・ランゲの「THE MECHANISM」を挙げた。このセレクトのテーマは「監視社会」。ひと昔前の写真家であれば、社会問題に真正面から対峙した、強い写真を出してくると思うけど、モルテンの写真にはもっとリアリストというか、冷静な態度を感じる。善/悪という単純明快な区分けは、もうあまり意味を持たないということかな。独特の「ぬるい」グレーなプリントが、現代社会のぬるま湯にどっぷり使っている私達(もちろん写真家自身も)を暗喩していると感じている。実は一度POETIC SCAPEに伊丹豪展を観に来てくれた。あれももう6年前。

画像4

3冊目は、今開催中ということも兼ねてだけど、兼子裕代「APPEARANCE」を。この作品は間接的に様々な問題に言及している。見えやすいものとしては「人種」だと思う。色々な肌の色が「歌う」というシンプルな行為のもとで、実に平等にappear(現れ)ている。次にあげるIssueは「ジェンダー」だ。写真集には男性、女性、そして一見性別がわからない人も歌っている。(写真集の表紙になっている、強烈で謎めいたDR. DREAMEさんのインタビューを、youtubeで近日公開するので、ぜひご覧になっていただきたい)

そして個人的に強く感じるテーマは「情報過剰社会」だ。TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアからの情報量とその胡散臭さは、すでに災害レベルだと思う。しかしなにかと必要でもあるので、日々自己責任でフィルタリングを行いながら、各メディアのTLを追う毎日。しかしAPPEARANCEの歌う人々は、楽器もなくアカペラで、自分の好きな歌を歌っている。注意してみると、目を閉じている人がとても多いのだ。この、何も焦って追っていない状態がなんだかとても人間らしく感じられて、ずっと観ていられる。兼子さんがこのシリーズに取り組んで、10年の時間が経っていた。

画像5

実はPenからの依頼は6年ぶりだった。友人の小池高弘さんから東京のフォトギャラリーを案内する役を頼まれたのが2014年の2/15号。それ依頼久しぶりに小池さんから声をかけてもらった。あれから6年後、小さな奇跡の積み重ねでPOETIC SCAPEというスペースが存続していることが感慨深い。

画像1

ただ、Penも雑誌のページ数が随分少なくなっていた。出版業界を取り巻く状況の変化もあるが、やはりコロナ禍の影響も小さくはないはず。POETIC SCAPEの今後も色々不透明だ。Penのロゴの下には6年前と同じく「with New Attitude」というサブタイトルが入っていた。6年前は気にも留めていなかったな。

画像6




いただいたサポートは、POETIC SCAPEの活動を通じてアーティストをサポートするために使わせていただきます。サポートをぐるぐる回していければ素敵だなと思っています。