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2023/1/18 準備とピン留め


大学最後の授業が終わった。ゼミの卒論発表会。
自分でも酷いと思うその論文をパワポにまとめて簡潔に紹介する発表会。
それが大学4年の最後の授業だった。
最後まで担当教授のお世話になり、半ば介護のような状態で書き上げた卒論をまとめてパワポで発表する。案の定締め切りには間に合わなかったそのパワポの出来すら碌でもないのはたしかだったがひとまず全てを終えた。
最後までメンバー全員集まらなかったねーなんて話をしながらしれっと始まった発表会。
1人目は例の好きになってしまったあの子だった。卒論は本屋大賞と社会情勢の関係性について。卒論も計画通りに進めた彼女のパワポはとても綺麗にまとめられていてゼミ一の出来だった。話し方、言葉選び、言葉使い、準備されてるからこそできる内容。最後までちゃんとしている高嶺の花子さん。
おかげでいきなり発表のハードルが上がった。
ちゃんとできる人はいつも羨ましい。

少しそれるが彼女とは結局音沙汰なしのまま終わってしまった。年末に変わらない気持ちを伝えることはできたが、その後のLINEに既読がつくことはなく…好きな本の話とか就活の話とか普通の会話すらできず本当になにもなく終わってしまった。一方的な愛はただのゴミって言いますもんね。ご愁傷様でした。
次会えるのは走馬灯だろうか。それなら死ぬのも悪くないとさえ思う。

話は戻り2番目は自分の発表。付け焼刃のパワポは思ったよりも仕事をしてくれたが、口下手な自分は終始何を言っているのかわからない。天と地ほどの差。メンバーから貰う感想コメントが情けなく申し訳なく、ただ「ありがとうございます」としか返せなかった。終わった安堵感で情けなさを隠して自席に戻った。
3人目は例のイケメン君。テーマは英国ファッションについて。
モテる人に備わっている生まれながらのセンスみたいなものを存分に感じた。
12月から卒論制作を始めても完璧なものを持ってくる「できた人」。発表の構成も組み立ても論理的な彼を見て、人生楽しいだろうな~なんて思った。
溢れる内容のある感想コメント。この3人の高低差で耳キーンなるわな。

その後も続いた発表会。5人目が終わったあたりぐらいからかな…
「あれ、めっちゃ押すやん。終わらなくね?」の空気。
1人5分の持ち時間であったが卒論の内容をまとめることは難しい。
だからみんな伸びてしまうのは仕方ない。じゃあ他に削れる時間なかったか?という空気。これに責任を感じる自分。

集まってすぐに始まるはずだった発表会。
間違いなくそれを遅らせたのは自分と教授とのやり取りだった。
最後まで人の時間を奪い迷惑をかける人間だったことに気付かされ、後半組の人の話は正直入ってこなかった。
言い訳はたくさんできる。でも事実は変わらない。
そんな自分に対して「君は首を吊った方がいいよ」と。
学生時代を過ごし終わるのに、この考えもずっとなくなってくれなかったなーなんて思いながら最後の挨拶を終えた。

初めてちゃんと意識したのは中学3年の受験期、300人近くいる同学年の中で唯一「希望進路」がなかった時だった。高校で人生が決まってしまう…そう思っていた当時の自分はまわりの人たちが何故そんなに大切な人生の決断をすんなりできるのか、本当に不思議だった。でも迫る受験日、どうしたらいいかわからないけど自分で決めなくてはいけない選択。
文字通り3日間で一口のご飯を食べるのがやっとという程に追い込まれた時、”もういい”と思った。自分のことを考えてくれる人は多かったけど、みんなその腹のうちに隠してる思惑みたいのが見えてしまうのもつらかった。親の「好きにすればいい、けどそこに行って将来どうするの?」というプレッシャー。教員たちの「いつまでそんなことで悩んでるんだよ」という呆れ具合。同級生の「あいつ大丈夫なん?」という視線。
結果、適当に進学はできたけど自分の意見なんか大して打ち明けることもなく流れにまかせた合格手続きだった。結局迷惑をかけるだけかけたまま、結果を残せず併願校の入学金を払うために郵便局に連れていかれたのを覚えている。というか忘れられない。「お前のために金を払ってやってるんだ」という親の脅迫のような説教も脳裏にこびりついている。総じてずっと”もういい”と限界を感じた春だった。

自責の念が強いと言われるかもしれないが、自分に責任があるのは確かだ。それは大学の最後の最後まで変わることがなかった。

そんな自分に対しての戒めみたいな最後の授業。

1時間近く長引いてしまったゼミの終わり、これで一生会わない人もいるだろうなと思いながら解散した後、男子グループで他愛のない話をしながら階段を下りている時だった。
自分の前を歩くあの英国ファッションのイケメン君のLINEが一瞬見えた。
誰かにメッセージを送った後で確認している時。
そのトークルームの一番上にピン留めされていたのは紛れもなくあの子のアイコンだった。
送ったメッセージもおそらく彼女に対して。

あーやっぱそういうことか…薄々気づいてはいたけどキツかった。
授業中もお互いスマホ触ってたし、大好きな人しかフォローしないという縮小垢で繋がってたし、何ならずっと仲良いなって羨ましかったし。
掌で転がされることもなかった自分。イケメンには勝てんわな…笑
「高値の花子さん」と「できる人」。
”もういい”って。

いいな、生きてるのが楽しい人は。
愛される人っていいな。


くそさむい中、卒論の考査を待ちながら人生最期の春休みを過ごしている。
4月から社会人。研修が終わる今年中には1人暮らしを始めたいと思う。
できればロフトのない部屋にしよう。
首が伸びきったままでは最期を迎えたくない。

そんなことを思った最後の授業だった。


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