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第10問 不公正発行と新株発行無効事由

 Xは、Y株式会社の設立以来同社の株式の過半数を有する唯一の代表取締役であった。しかし、高齢のXは入院が続いていたため、Y社の経営は 専務取締役Aが取り仕切っていた。XとAは令和4年6月頃には経営方針の対立をめぐって険悪な関係になっていた。Aは、XがY社の解散決議をするおそれを感じ、同年9月6日に取締役会を招集し、Aを代表取締役に選任する旨の決議を行なった。さらに、Aは、同年11月14日に、取締役会を招集し、本件新株発行の決議を行い、同年12月6日に本件新株が発行された。この新株発行は、Aが全部を引き受けるというものであり、これにより、Aの持株比率は従前25%だったものが、52%となった。
 Xは、本件新株発行は著しく不公正な方法により行われたものであるとして、新株発行無効の確認を求めた。

[設問]
 上記Xの請求は認められるか。

解答例
第1 本件新株発行は、著しく不公正な方法による新株発行と言えるか。
取締役の選任解任は株主総会の専決事項であり、被選任者である取締役に、選任者たる株主構成の変更を主要な目的とする募集株式の発行等をすることを一般的に許容することは会社法が機関権限の分配を定めた法意に明らかに反する。したがって、募集株式の発行等の主要な目的が、資金調達等の正当な事業の遂行ではなく、会社の支配権の維持・争奪である場合には、当該株式発行等は著しく不公正な方法によるものとして違法と解すべきである。
 XとAは令和4年6月頃には経営方針の対立をめぐって険悪な関係になっており、Aは、XがY社の解散決議をするおそれを感じ、同年9月6日に取締役会を招集し、Aを代表取締役に選任する旨の決議を行なった上で、同年11月14日に、取締役会を招集し、本件新株発行の決議を行い、同年12月6日に本件新株を発行し、これによりAの持株比率は過半数を超える52%となった。この経緯からすると、本件新株発行は、Xによる解散決議を阻止するために、AがY社の経営支配権を奪取することを主たる目的として行われたものと考えるのが妥当である。
 よって、本件新株発行は著しく不公正な方法により行われた違法なものと言える。
第2 では、著しく不公正な方法による新株発行がされた場合、これは、新株発行無効事由となるか。
新株発行の無効事由については、明文規定がなく、もっぱら解釈に委ねられる。新株発行がなされると株式の譲渡等を通じて多数の利害関係人が生じうるため、新株発行の効力は極力否定すべきではない。したがって、新株発行が無効となるのは、当該新株発行手続に重大な瑕疵がある場合に限るべきである。
 ここで、著しく不公正な方法によることが重大な瑕疵に当たるかが問題となるが、これは重大な瑕疵に当たらないと解すべきである。なぜなら、新株発行の場面においては上記の通り多数の利害関係人の取引の安全を図る必要性が高く、また、不公正発行であるか否かの判断基準は明確さを欠くからである。

 よって、本件新株発行手続は著しく不公正な方法による点で違法ではあるが、これが原因で本件新株発行が無効となることはない。
第3 以上より、Xの請求は認められない。

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