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第1問 株式の共有

 甲社の創業者たるAは、甲社の発行済株式の全てを有する株主である。
 Aは令和元年に死亡した。
 Aの相続人は、Aの子であるB・Cの2名である。Aの遺産相続をめぐって折り合いがつかず、遺産分割の協議は調わなかった。
 ところが、令和4年11月11日に開催された甲社の臨時株主総会(「本件株主総会」)において、甲社代表取締役Eの同意を得た上で、Bが議決権を行使して、Bを取締役に選任する旨の株主総会決議をした(「本件株主総会決議」)。

[設問1]
 Cは、本件株主総会決議取消しの訴えを提起することはできるか。原告適格の有無について検討しなさい。

[設問2]
 設問1の訴えを提起することができることを前提として、本件総会決議取消しの請求は認められるか。


解答例
第1 設問1
1 株主総会決議取消しの訴えの原告適格は、「株主等」(会社法831条1項柱書前段)にのみ認められる。
 株式は「所有権以外の財産権」(民法264条本文)に該当するから、数人で株式を有するに至った場合は、当該株式は準共有状態になる。
 B・Cは、Aが死亡したことにより、Aが保有していた甲社株式を共同相続する(民法882条、887条1項、896条本文、898条1項)。そして、遺産分割が調っていない本件においては、B・Cは甲社株式全部を数人で有する状態と言える。よって、甲社株式全てがB・Cの準共有に属することになる。
 そうすると、Cは準共有状態とはいえ、甲社の株主であることに変わりはないのであるから、本件株主総会決議取消しの訴えの原告適格を有するように思える。
2 もっとも、共有株式については、権利行使者を一人指定し、会社に対しその者の氏名及び名称を通知しなければ、共有者は当該株式についての権利を行使することができない(会社法106条本文)。株主総会総会決議取消しの訴えの原告適格が株主等にのみ与えられていることからして、この訴えを提起することができる権利は「株式についての権利」だと言わざるを得ない。
 だとすると、権利行使者の指定・通知がない本問においては、Cは原告適格を欠き、本件株主総会決議取消しの訴えをすることはできないのが原則である。
3 しかし、会社が共有株主の権利行使を認めないことが信義則に反するといえるような特段の事情がある場合は、指定・通知を欠く場合でも株主総会決議の訴えをすることが許されると解すべきである。
 甲社側が権利行使者の指定及び通知を欠くBについての議決権行使は認められるとしながら、Cの本件総会決議取消しの訴え提起については権利行使者の指定及び通知を欠くことを理由に訴え却下を求めるとすれば、それは訴訟上の防御権を恣意的に使い分けるものとして信義則に反する。したがって、本問では、上記特段の事情が認められる。
4 よって、Cは、本件株主総会決議の取消しの訴えを提起することができる。
第2 設問2
1  権利行使者の指定がないにもかかわらず、Bが議決権行使をしているため、「決議の方法が法令に違反」している(会社法831条1項1号)といえないかが問題となる。
準共有された株式についての権利行使者の指定は、当該権利行使により直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなどの特段の事情がない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条1項前段に基づき、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決するものと解するのが相当である。
 BとCの共有持分はそれぞれ2分の1である(民法900条4号本文)。取締役選任議案に対する議決権行使は直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することにならないため、上記特段の事情は存在しない。したがって、当該権利行使に関する権利行使者の指定は持分の価格に従いその過半数をもって決するべきである。しかし、BはCに無断で議決権行使していることから、Bの議決権行使は持分の価格に従いその過半数をもって決せられたものではない。
 よって、Bの上記議決権行使は適法な権利行使者の指定を欠くものとして違法であると思われる。
2 これに対し、甲社を代表するEは、会社法106条但書は株式会社の同意さえあれば特定の共有者が共有に属する株式について適法に権利を行使することができる旨定めた規定であると反論する。この反論は正当か。
会社法106条本文は民法の共有に関する規定に対する「特別の定め」(民法264条但書)を設けたものと解される。その上で、会社法106条但書は、株式会社が特定の共有者の権利行使に同意した場合は、同条本文の規定の適用を排除することを定めたものであると解される。そうすると、共有に属する株式について、会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該株式の権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条但書の同意をしても当該権利の行使は適法とならないと解するべきである。
 そして、上述の通り、Bの議決権行使は民法の共有に関する規定に従ったものではない。
 よって、Eの反論は失当である。
3 以上より、本件株主総会決議には、民法252条1項前段に反してBに議決権を行使させたという点で「決議の方法が法令に違反」する(会社法831条1項1号)と言える。
 よって、本件総会決議取消しの請求は認められる。

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