見出し画像

第3問 名義書換えの不当拒絶

 Y会社は、取締役会において、令和4年2月29日、株主名簿に記載されている株主に対し、その保有株式1株につき新株2株の割合で割り当て、申込期間を同年4月25日より5月10日まで、払込期日は同年5月21日とする新株発行を決議した。Y会社の株主であるXは、令和4年1月28日に保有するY社株式(「本件株式」)をAに譲渡し、Aは、同年2月16日、Y会社に株式名義書換請求をしたが、Y会社の過失により書換えは行われず、基準日当時も依然としてXが本件株式に係る株主として株主名簿に記載されていたため、Y会社は同年4月25日、Xに1000株の新株割当ての通知をなし、Xは同年5月2日に1000株の申し込みをするとともに証拠金の払込をした。その後、Y会社が本件株式に係る新株(「本件新株」)をAに割り当てたため、XはY会社に対し、本件新株の交付を請求した。

[設問]
 XのY会社に対する請求は認められるかについて検討しなさい。


解答例
第1 Xの請求が認められるためには、令和4年2月29日の時点で、XがY会社の株主であることが必要である。
 しかし、Xは、令和4年1月28日に自身の保有する本件株式をAに譲渡しているから、Xはその時点でY会社の株主ではなくなっているように思える。
第2 そこで、Xは、本件株式の譲渡についての名義書換えが未了であることから、本件株式の譲渡をY会社に対抗することはできず(会社法130条1項)、令和4年2月29日の時点において、XがY会社の株主として扱われるべきであると主張する。
名義書換えの不当拒絶は会社の便宜という会社法130条1項の趣旨を逸脱したものであり、信義則上許されない。したがって、会社は正当の事由なくして株式の名義書換請求を拒絶しその書換えのないことを理由としてその譲渡を否認することはできない。よって、このような場合には、会社は譲受人を株主として扱うことを要し、株主名簿上に株主として記載されている譲渡人を株主として取り扱うことはできない。そして、このことは会社が過失により株式譲受人から名義書換請求があったにもかかわらず、その書換えをしなかったときにおいても、同様であると解すべきである。
 Y会社の株主であるXは、令和4年1月28日に保有する本件株式をAに譲渡し、Aは、同年2月16日、Y会社に株式名義書換請求をしたが、Y会社の過失により書換えは行われなかった。したがって、Y会社は本件株式の譲受人であるAを株主として扱わなければならない。
 よって、Xの主張は失当である。
第3 以上より、XのY社に対する請求は認められない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?