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第9問 新株発行における瑕疵と新株発行の効力

 東証プライム市場に上場するY株式会社(公開会社)は令和4年9月8日に開催された取締役会において、Aに対し、1株の発行価額1000円で170万株を発行することを決議し、同月30日にAが上記株式に対する払込金として1株につき1000円を払い込んだことにより、翌10月1日に新株発行の効力が生じた。この新株発行に関して株主総会が開催されることはなかった。なお、取締役会開催日の前日におけるY社株式の株価は1株3000円であった。
 Y社の株主Xは上記新株発行の効力を争いたい。

[設問]
 Xが上記株式発行の効力を争う方法を指摘した上で(訴訟要件の検討は不要)、上記新株発行の効力について論じなさい。
 仮に、Y社が非公開会社であった場合、新株発行の効力はどうなるかについても論じなさい。

解答例
第1 効力を争う方法
 Xは、本問における新株発行(「本件新株発行」)の無効の訴え(会社法828条1項2号)を提起する。
第2 新株発行の効力
1 無効事由
新株発行の無効事由については、明文規定がなく、もっぱら解釈に委ねられる。新株発行がなされると株式の譲渡等を通じて多数の利害関係人が生じうるため、新株発行の効力は極力否定すべきではない。したがって、新株発行が無効となるのは、当該新株発行手続に重大な瑕疵がある場合に限るべきである。
2 Xの主張とその当否
⑴ Xは、時価が1株3000円のY社株式を1株1000円で発行することは有利発行(会社法199条3項)であるから、株主総会の特別決議が必要である(会社法201条1項前段、199条2項、309条2項5号)にもかかわらず、本件では総会決議がされておらず、手続に重大な瑕疵があると主張する。
⑵ 「特に有利な金額」(会社法199条3項)とは、公正な発行価額よりも特に低い価額をいう。この場合における公正な発行科学は、発行価額決定前の当該会社の株式価格、上記株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、配当状況、発行済株式数、新たに発行される株式数、株式市況の動向、これから予測される新株の消化可能性等の諸般の事情を総合し、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益との調和の中に求められるべきものである。もっとも、上記の公正な発行価額の趣旨に照らすと、公正な発行価額というには、その価額が、原則として、発行価額決定直前の株価に近接していることが必要であると解すべきである。
 発行価額決定直前のY社の株価が1株3000円であり、この株価が異常な投機による一時的なものであると認められるような特段の事情がないことから、公正な発行価額は1株3000円前後であったと言うべきである。しかし、本問では、1株1000円で新株発行がされている。これは発行価額決定直前の株価の3分の1の価額であり、発行価額決定直前の株価との乖離の程度が著しく、公正な発行価額を大きく下回るものと言える。よって、本件新株発行は「特に有利な金額」による発行と言うべきである。
 そうすると、Xの主張の通り、Y社は本件新株発行には、株主総会決議を経ていないという瑕疵があると言える。
⑶ では、この瑕疵は、無効事由を構成するような重大な瑕疵と言えるか。
新株発行は会社の業務執行に準ずるものであり、株主総会特別決議の要件は取締役会の権限行使についての内部的要件にすぎないこと、公開会社の株式に係る取引の安全を強く保護する必要性があることから、株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、当該新株が、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもって発行されたものであっても、その瑕疵は、重大な瑕疵とは言えないと解すべきである。
 Y社は公開会社であることから、本件株式発行における株主総会特別決議の欠缺は重大な瑕疵とは言えない。 
 よって、本件新株発行は有効である。
⑷ では、Y社が非上場の非公開会社であったとすると、株主総会決議が欠けることは重大な瑕疵と言えないか。
非公開会社が株主割当以外の方法で募集株式を発行するには、取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任した場合を除き、株主総会の特別決議を必要としていること(会社法199条)、また、株式発行無効の訴えの提訴期間が、公開会社の場合は6ヶ月であるのに対し、非公開会社では1年とされていること(会社法828条1項2号)に鑑み、非公開会社では、会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益の保護を重視すべきであるから、非公開会社における新株発行の際の総会決議の欠缺は重大な瑕疵と言うべきである。
 よって、Y社が非公開会社であった場合は、本件新株発行は無効である。

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