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第6問 取締役の監視義務と対第三者責任

 A株式会社は、電気製品修理業を営む会社であり、Y1が代表取締役、Y2・Y3が取締役、Y4が監査役の地位にあった。
 A社は創立総会も株主総会も開いたことがなく、正式な取締役会も開いたことがなかった。会社業務はY1が独断で行っており、会計帳簿等もほとんど作成せず、監査役の監査も受けていなかった。
 令和4年8月頃、Y1は他の取締役に相談することなく、自動車修理部門まで事業を拡張することを計画し、その資金を得るために、900万円に及ぶ融通手形をB宛に振り出したが、同人に騙されて資金を得ることはできなかった。これが原因でA社は手形金支払義務だけを残して、同年秋に倒産した。上記手形を有するXはA社の倒産により手形金の支払いを受けることができず、手形金額に相当する損害を被った。Y1及びY4は行方不明となったため、XはY2及びY3に上記損害の賠償請求をした。

[設問]
 Xの損害賠償請求は認められるかについて検討しなさい。

解答例
 Xの請求の法的根拠は会社法429条1項である。
会社法429条1項は、株式会社が経済社会において重要な地位を占めていること、しかも株式会社の活動は、その機関である取締役の職務執行に依存するものであることを考慮して、第三者保護の立場から特別の法定責任を定める趣旨の規定である。このことから、「その職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとき」とは、任務懈怠とその任務懈怠についての悪意又は重過失があったときのことを意味すると解すべきである。
 では、Y2及びY3に任務懈怠及びそれについての悪意又は重過失が認められるか。
株式会社の取締役会は会社の業務執行につき監査する地位にある(会社法362条2項)から、取締役会を構成する取締役は、会社に対し、取締役会に上程された事柄についてだけ監視するにとどまらず、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有するものと解すべきである。
 Y2及びY3はA社の取締役であるから、上記監視義務を負う。会社が新規事業に手を出すに際して、資金調達は非常に重要となり、信頼できる相手方から資金調達をすることが求められるのであるから、Y2及びY3は、貸し手であるBが信頼できる人物であるか否かにつき調査し、問題があればY1に注意を促す必要があった。しかし、同人らは、会社業務をY1が独断で行っているのに任せ、Y1の業務執行を全く監視していなかったことがうかがわれる。したがって、Y2及びY3には監視義務違反がある。よって、任務懈怠が認められる。また、普段から全く監視義務を果たしていなかったことに照らすと、今回の義務違反について、Y2・Y3には悪意ないしは少なくとも重大な過失があったと言える。
 そして、令和4年8月頃、Y1は他の取締役に相談することなく、自動車修理部門まで事業を拡張することを計画し、その資金を得るために、900万円に及ぶ融通手形をB宛に振り出したが、同人に騙されて資金を得ることはできず、これが原因でA社は手形金支払義務だけを残して、同年秋に倒産し、上記手形を有するXはA社の倒産により手形金の支払いを受けることができず、手形金額に相当する損害を被った。よって、「第三者」たるXに損害が生じている。
 また、Y2及びY3が監視義務を果たし、Y1の適切な判断を促せていれば今回のような手形債務の履行不能は生じなかったと考えられるため、Y2及びY3の任務懈怠とXの損害との間に因果関係はあると言える。
 よって、Xの請求は認められる。

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