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第7問 承認を欠く利益相反取引の効力

 Y株式会社の代表取締役Aは、X株式会社に対する自己の債務につき、Y社を代表して債務引受をした。この債務引受に関して、Y社取締役会の承認を受けていなかったが、X社はそのことについて知らなかった。
 X社は、Y社に対し、上記債務の履行を請求した。

[設問]
 X社の請求は認められるか。

解答例
第1 Y株式会社の代表取締役Aは、X株式会社に対する自己の債務につき、Y社を代表して債務引受をした。これは、Y社の利益を犠牲にしてAが利益を受ける構造の契約になっているので、「株式会社が…取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引」(会社法356条1項3号)をしたと言える。
 したがって、この債務引受の際には、AはY社取締役会において承認を受けなければならなかったということになる(会社法365条1項、356条1項柱書)。しかし、AはY社取締役会における承認を受けていない。
第2 このような会社の承認を欠く利益相反取引は有効か。
会社法356条2項が取締役会の承認を受けた場面については、民法108条の規定を適用しない旨規定していることの反対解釈として、その承認を受けないでした行為は、民法108条違反の場合と同様に、一種の無権代理行為として無効になることを予定しているものと解すべきである。
したがって、承認を欠く利益相反取引は無効になるのが原則である。
 しかし、会社と取締役以外の第三者が取引をする間接取引の類型においては、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要がある。よって、その取引について取締役会の承認を受けなかったことについて、相手方である第三者が悪意でない場合は、取引は有効となると解すべきである。

 本問では、取引の相手方たるX社は、Y社において、本件債務引受に関して、取締役会で承認がされていないことにつき知らなかったのであるから、上記悪意は認められない。
 よって、本件債務引受は有効である。
第3 以上より、X社の請求は認められる。

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