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第12問 合併比率の不公正と合併無効事由

 上場会社であるY株式会社は、令和4年11月25日、Y社を存続会社、その非上場の子会社であり、Y社からの不動産賃料を主たる収益源とするA株式会社を消滅会社、合併対価としてA社の株式1株につきY社の株式1株を交付する吸収合併を行なった。なお、当該吸収合併における公正な合併比率はA社株式3株につきY社株式1株であった。A社株主にとって有利な比率で合併がされることになったのは、当該合併を承認するY社の株主総会決議において、A社の株主でもあるY社の大株主Bが賛成の議決権を行使したからであった。
 Y社株主Xは上記吸収合併の効力を争うべく、Y社に対し、上記吸収合併無効の訴えを提起し、吸収合併の無効確認を求めた。

[設問]
 Xの請求は認められるか。

解答例
第1 公正な合併比率がY社株式1:A社株式3であるところ、1:1の合併比率が採用されていることから、合併比率が不公正であることは明らかである。そこで、合併比率の不公正が合併無効事由となるかが問題となる。
合併比率が不当であるとしても、合併契約の承認決議に反対した株主は、会社に対し、株式買取請求権を行使することができる(会社法785条、797条)のであるから、合併比率の不当または不公正ということ自体が合併無効事由になるものではないというべきである。
 よって、本件における吸収合併の合併比率の不公正のみを理由に吸収合併が無効となることはない。
第2 そこで、Xは、上記のような不公正な合併比率での合併契約を承認したY社の株主総会決議はA社の株主でもあるBが議決権を行使したことにより成立した著しく不当な決議であり、決議取消事由があることを理由に、本件合併が無効であると主張する。
株主総会特別決議による合併比率の自由な決定は尊重する必要があるが、合併の一方当事会社が他方当事会社の大株主であったり、両当事会社に共通の大株主がいたりして多数決の濫用が懸念される場合には、裁判所が介入する必要性がある。そこで、著しく不公正な合併比率を定める合併契約を承認する株主総会決議に特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議(会社法831条1項3号)という決議取消事由がある場合には、そのことが合併無効事由に該当すると解すべきである。
 本問では、公正な合併比率からすると、著しくA社株主にとって有利な合併比率での合併がY社株主総会で承認されている。そして、この承認は、A社の株主として本件合併について特別な利害関係を有するY社の大株主Bが自己の利益のためだけに賛成の議決権を行使したことによりなされた著しく不当な決議であると評価できる。したがって、本件の吸収合併は無効である。
第3 よって、Xの請求は認められる。

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