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第2問 帳簿閲覧請求の拒否事由

 甲社は、名古屋市中央卸売市場北部市場において青果仲卸業務の受託等を目的とする株式会社であり、その発行済株式の全てが、名古屋市内において青果の仲買業等を目的とする乙株式会社によって保有されている。甲社及び乙社は、もっぱら野菜類を取り扱い、将来において果物類を取り扱う予定はない。
 Aは、乙社の株式5840株(総議決権の約3.6%)を有している。また、Aの子Bは乙社株式3万4320株(総議決権の約21.5%)を保有するほか、丙社株式30%以上を保有し、丙社の監査役に就任している。なお、丙社は、名古屋市中央卸売市場本場において青果物の仲卸業等を目的とするが、もっぱら果物類を取り扱い、将来において野菜類を取り扱う予定はない。
 A及びBは乙社の株主として、会社法433条3項に基づき、裁判所に対し、甲社の会計帳簿閲覧謄写の許可を申請した。

[設問]
 裁判所は上記Aの申請に係る会計帳簿閲覧謄写を許可するべきか検討しなさい。


解答例
 甲社の親会社たる乙社の株主であるA及びBは「親会社社員」に当たるが、会社法433条2項各号のいずれかに該当する事由があるときは裁判所は帳簿閲覧謄写の許可をすることができない(会社法433条4項)。そこで、会社法433条2項各号該当性が問題となる。特に、Aの息子Bが甲社と類似の事業を営む丙社の株主であり同社の監査役を務めていることから、同項3号該当性が問題となる。
会社法433条2項3号は、会計帳簿等の閲覧謄写を請求する株主が会社と競業すをなす者であること、会社と競業をなす会社の社員、株主、取締役又は執行役であることなどを閲覧謄写請求に対する会社の拒絶事由として規定するが、同号は同項2号とは異なり、文言上、会計帳簿等の閲覧謄写請求によって知りうる事実を自己の競業に利用するためというような主観的意図の存在を要件としていない。そして、一般に上記のような主観的意図の立証は困難であること、株主が閲覧謄写請求をした時点において上記のような意図を有していなかったとしても、同項3号の規定が前提とする競業関係が存在する以上、閲覧謄写によって得られた情報が将来において競業に利用される危険性は否定できないことなども勘案すれば、同号は、会社の会計帳簿等の閲覧謄写を請求する株主が当該会社と競業をなす者であるなどの客観的事実が認められれば、会社は当該株主の具体的な意図を問わず一律にその閲覧謄写請求を拒絶できるとすることにより、会社に損害が及ぶ抽象的な危険を未然に防止しようとする趣旨の規定と解される。
 したがって、会社の会計帳簿等の閲覧謄写請求をした株主につき同号に規定する拒絶事由があるというためには、当該株主が当該会社と競業をなす者であるなどの客観的事実が認められれば足り、当該株主に会計帳簿等の閲覧によって知りうる情報を自己の競業に利用するなどの主観的意図があることを要しないと解するのが相当である。そして、同号に掲げる事由を不許可事由として規定する会社法433条4項についても上記と同様に解すべきである。

 AとBは各々乙社の議決権の100分の3以上を有し、甲社の会計帳簿等の閲覧謄写請求をする資格を有するため、会社法433条2項3号の客観的事実の存否も各別に判断すべきである。
 Aは、甲社と類似の事業を営む丙社の株主ではなく、同社の役員であるなどの事情もうかがわれない。したがって、Aについては、会社法433条2項3号該当性は認められない。
 よって、裁判所は上記Aの申請に係る会計帳簿閲覧謄写を許可するべきである。

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