アド業界がなぜ儲からなくなったのか、マイケルポーター的に振り返る

マイケルポーターの5 Forceという有名なフレームワークをアド業界に当てはめて考えてみようと思います。
昔に比べて市況感が厳しいと言われていますが、何が起こってそうなっているのかの整理をしていきます。

まずポーターの理論でいくと以下のような要素が利益を圧迫していきます。

引用元:ITビジネス

真ん中に自分と競合を含めた業界があります。
その周りに以下の四つの要素が圧力をかけてきます。
新規参入、代替品、供給元の交渉力、買い手の交渉力

まず同じ広告業界の中でもテレビ広告の代理店について見ていきましょう。

真ん中の競合には電通、博報堂、ADKしかいないと言っても良いでしょう。
枠の買い占めの比率は6:3:1くらい(これは口頭で電通社員に聞いた話なので正確性は保証できません)

①新規参入
新規参入の圧力は全くないと言って良いでしょう。民営放送の立ち上げから電通はそれぞれのテレビ局に入り込んでおり、実質的な独占市場です。
これに対して、インターネット広告は中学生でも出稿できるくらいに出入りが自由なので、新規参入という観点では常に利益を圧迫されます。

②代替品
TVCMに対する代替品はなんと言ってもインターネット。インターネットで代替できない価値をTVCMが出せるか?という点が問われています。

③供給元の交渉力
電通は枠を仕入れて、コンテンツを乗っけて販売するという事業なので、仕入れはテレビの枠ということになります。
全体の6割を一社で大量ロットで購入していることから電通の交渉力はめちゃくちゃ強いと思います。
Metaに対して小規模インターネット広告事業者が数万社で入札をしていることを考えるとわかりやすいと思います。
実際metaの営業利益率は40%です。どんだけ我々は交渉力ないんだと絶望する数字です。。

④買い手の交渉力
電通の枠を購入する企業の交渉力ですね。博報堂やADKと比較してという話になるのでしょうが、やはりテレビを出稿しようとなると電通を通さざるをえないケースは多いと思います。この辺は詳しくないので想像です。
またここはクライアントの業績による要素も影響してくると思います。

このように電通の脅威は②の代替品ってことですが、それ以前は構造的に無双していたということが言えます。

それではアド業界は構造的に儲かり続けることができるのか?ということを見ていきましょう。

まず真ん中の競合ですが、TVCMの3社で寡占に比べると圧倒的にプレイヤーがいて日々削り合っています。

①新規参入
まずここが低すぎるという問題はありますね。そもそもインターネットという概念自体に民主化というものがあるので、広告に限らず独占的な状況を作るのが難しい、誰でも参加できるということは避けられないと思います。
ただ、その中でもYouTube広告など枠を抑える(良い配信面をとる)ために一定の金額消費が必要になったり、専門的な知識が必要になるような媒体では新規参入を防がれているケースもあると思います。
既存の大市場のリスティングでも同じことが言えると思います。特定ジャンルに対するアカウントパワーと特別単価で新規参入が入れず、アドに比べてプレイヤーの入れ替わりが少ないのが特徴だと思います。
バイトダンスのアルゴリズムは広告、オーガニック問わず新規参入に優しいという思想を感じます。良さである反面、持続的な優位性を保つのが難しい設計になっています。

②代替品
メガプラットフォームの浸透が行き届いた結果、新たな配信枠というフロンティアの開拓はほとんど完了して、あとは広告の配信者だけが増える状況なのでCPMは基本的に上がっていくことになります。そこでインフルエンサーやバズを狙ったオーガニック施策などが代替品の脅威として考えられます。
より費用対効果の良い配信面の開拓、発明にオポチュニティはありますね。すでにアドに対する課題感はどのクライアントも顕在化しています。
逆にいうと上記の代替品で代替できない商品ジャンルもあります。例えば「ワキガクリーム」などどのインフルエンサーもやりたがらないでしょうし、SNSによるシェアも生まれにくい商材だと思います。この商品に関してはアドやリスのペイドメディアでしか取れなくない?とも思ったりします。
仮にこのようなクライアントの商材を扱っている場合は、代替品の脅威(SNS施策)を感じることは相対的に低そうです。いわゆるコンプレックス商材ですね。

③供給元の交渉力
とにかくプラットフォームの交渉力が強すぎるのと枠の価格のアップダウンが激しいというのは事業者としては大問題です。
特定のサイトの枠を年間で純広告で一括購入するとという方法の方が価格交渉力がこちらにあるし、値段も固定できるという点ではよろしそう。
スケールができないという問題はありますが。

広告代理店の役割は「枠の仕入れ」「コンテンツ作成」の二つに分けられると思います。コンテンツ作成は属人性が高く、再現性が保ちにくいので組織化が難しいです。安定的に大きくなっている代理店をみると「枠の仕入れ」に寄っていると感じます。リスティング運用などもコンテンツ介在がなく(ほとんど比較サイト)で、やることは入札という枠をとる作業。枠の仕入れの方が再現性を出しやすいので、組織化に向いているという側面はあると思います。大手の広告代理店がディスプレイより、リスティングをまずやるっていうのもその辺の要素もあったり。もう一つの理由としてディスプレイを撤退してもリスティングは撤退しないですからね。

電通も結局のところクリエイティブディレクターというより、テレビの枠を6割持っているという方が会社の強みとしては圧倒的に大きいと思います。
広告代理店として伸ばしていくのであれば、枠の仕入れに特化するという戦略もありかなーとか思ってます。

逆にアドの業界は枠の仕入れに関してはほとんど横並びで、コンテンツによって差がつくゲームルールだったので若くして稼いだり、プレイヤーの入れ替わりが早かったりしたのかなと思ったりしております。

④買い手の交渉力
買い手は広告代理店にとってのクライアントになります。特定の単価であれば誰でも良い、かつプレイヤーは無限にいるので買い手の交渉力という観点では弱いでしょう。

どの業界でもこのような外部からの圧力はあるものですが、長期にわたって安定的に利益を出す続けるのが難しい構造になっていると思います。
そんな中でも持続的に利益を出すような仕組みを持って、事業を運営している会社は少なからずあります。(ここについてはまた別途まとめようと思います。)
ぜひ興味のある方はディスカッションしましょう!

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