見出し画像

やり続けられないことは、やらない主義

私が働いていた頃、勤め先で「秘書」と呼ばれている仕事をしていた。

一つの分野に集中して取り組むというよりは、種々雑多な雑よ…仕事を、その日一日優先順位をつけて淡々と処理していく。

私が新人時代、教育係として指導してくださっていた先輩がいた。

その先輩は仕事に対してとても熱く、誇りを持っていて、ボスが快適に仕事に打ち込めるように、また同じ秘書同士でも効率よく働けるように、時には仕事以外のフォロー(疲れている時にお菓子や飲み物を用意してくれたり、そのお菓子の渡し方も可愛いペーパーに包まれていて、何この女子力の高さと悶えたものだ)も忘れず動く、秘書の鑑のような人だった。

その熱意ある先輩を、私はとても尊敬していた。

しかし、真似したいとは思わなかった。

先輩は確かに、常にボスに必要以上の負担や手間をかけないよう、先回りして動くことを第一に考えていた。

しかしその先回りな作業が、先輩の仕事量をかなり押し上げていた。

もちろんボスの仕事に直接関わるような仕事ではなく、本当の雑務だ。ハッキリ言ってやらなくていい、多分ボスは全く気に留めていないであろうところを、独特の感性でフォローしようとしていたのだ。

・ボスのものと分かるように雑誌の背表紙にハンコを押す(持ち出すことのない月刊誌だし1か月後にはほぼ読まれずに捨てられるからぶっちゃけ押さなくてもいい)

・その雑誌はビニール袋に広告紙等と一緒に届くため、どれを読んだらいいのか分かるように中身の順番を変えたり、ボスが読みがちなページに付箋をしておく(この説明は最後まで理解できなかった。そもそも1か月後にはほぼ読まれずに捨てr)

・縦長封筒を取り出しやすいようにとあえて横から切って開封しておく(ほかの秘書はそもそも開封もしないし、誰もやってない開封方法だったために別の先輩の前でやった時変な奴と思われた。これについては少し、いや結構恨みがあるw)

等々…。

その先輩から独り立ちして最初のころは、先輩のやっていたことを健気に真似してみた。…が、しかし、やっぱり続かなかった。というか、端から続けられる気がしないと思っていた。

一応自分が何をしているか、どんな作業をしているか、自分の担当ボスには軽くだが報告していた。なのでこれからやめると決めた作業について、ボスに告げると、

「何の話?」

まるで今初めて知りましたという顔と台詞をこちらに投げてくださった。

まあそりゃそうだなと、そんなところ気にしているとしたらよほど暇ってことになるから、これからも気にできないほど猛烈に仕事してくださいと心の中で心からのエールを送って報告を終えた。


しかし、こんな私も必要のなさそうなフォローを思いつく瞬間があった。

自分に時間的余裕があるときだ。

こなさなければならない雑務を終わらせ、思ったより時間ができてしまった時、主不在のボスの部屋に入り書類の確認をするのだが、ふと書類のまとめ方が気になった。

もう少しこうすればいいのでは?こうまとめれば見やすくなるのでは?あ、タグを貼ったら検索しやすいかもしれない。

試しに一束書類をもって自席に戻り、タグのシールを探してみると、必要枚数がなかった。こういう時は倉庫に行って文具コーナーからタグシールを数束もらってこなければならない。

我に返った。

めっっっっっちゃメンドクサイ!!!!!!

ていうかこれは、私が今ひm…時間的余裕があるからできることであって、タグに味を占めたボスから「今度からよろしく」て言われてしまった場合、どんなに忙しくてもこの作業をやり続けなければならなくなる……全っ然急ぐ仕事じゃないから優先順位は地にめり込んで、なんなら意識から吹っ飛んで、ある時「最近タグ付けしてないよ、頼んだよ」なんてボスから指摘されて、あぁなんであの時私はタグ付けしようなんて思いついたんだクソ!て自分に悪態つきながらも他でもない自分が率先して始めたことだからやめることもできず淡々とタグを貼り続けていく……。

めっっっっっちゃメンドクサイ!!!!!!(2回目)

よし、やめよう。

我に返った私は、何事もなかったかのように手にしていた書類をボスのテーブルに置いて、すっきりした気持ちで自販機で買った紅茶を啜るのだった。

タグというか、書類の整理の件は、ボスから「なんとかしてくれ」と言われてからやることにしよう。大体ボスが何も言ってこないということはボス的には不便を感じていないということだ。私が余計なマネをしたらかえって分かりにくくなる可能性もあるし、タグ付けをしている間書類は私のもとにくるわけだから、「見たくても見れない」という状況も発生しかねない。うん、やらないという選択をしたことは英断だ。グッジョブ、自分。

結局私が退職するまで、書類を何とかしろと言われたことは一度もなかった。むしろ、ボスが暇を持て余している時に自分で書類の整理をして、私に「見てみて~いいでしょ~」と自慢げに見せてきたくらいだ。今でも心から手を出さなくて良かったと思っている。


こんな職場での経験から、私が主婦になってもモットーとしていることは、

「やり続けられないことは、やらない」ということ。

アレコレやってみようと思いつくことはいつもある。問題は、それをやり始めたが最後、やめられなくなって自分の首を絞めることが起きるかどうかということだ。

やり続けられる、やり続けなければならない、もしくは頼まれてやり続けるしかない場合は、意を決してやり始める。しかし、正直やり続ける必要はない、やり続けなくてもいいのに家族や誰かのためという善意で始めて、周りがやり続けることを当然と思ってしまった場合は、ただでさえ忙しい毎日に更に負荷をかけることになる。しかも感謝もされない。それは自分に対してとてもかわいそうだ。

秘書業も主婦業も、種々雑多な作業をその日一日の中でいかに処理していくかが重要なのだ。限りある時間を有効に使うため、仕事をいかに増やさないかも大事な仕事の一つではないだろうか。


ちなみに。気が利かないとか、面倒くさがりとか文句を言う人には、「取捨選択が上手なの」と堂々と反論している(笑)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?