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広島

小学校1年生の夏休み、8月6日、家族で広島へ行った。もう細かなことは覚えていない。平和記念資料館の横に伸びた建物、原爆死没者慰霊碑、手前に手向けられた花とアーチの内側を貫いてその向こうに見える原爆ドーム。平和記念資料館の中で見た溶けたガラス瓶。そして焼けただれ皮が剥け下がったひとのマネキン。

夜は湯来温泉に泊まった。広島市内から西へ小一時間ほど、山に囲まれた場所にある温泉宿だった。広い部屋に家族5人の布団を敷き横になり、しばらくしても宿の外を流れる川の音が気になって寝付けなかった。気づいた父が、少し外を歩こうかと誘うので二人で夜の温泉街の川沿いの道を歩いた。

豊富に流れる水の音は大きく、目をつむると爆弾かそれを積んだ飛行機か、とにかくなにか不吉なものの発する音のように思えて、それで眠れなくなったのだ。昼間、資料館で見たそれらがもたらしたおそろしい風景の予感をともなって。歩きながら、言い淀みながらも、それを父に伝えたことを覚えている。夜風は涼しく、ふたりで温泉街のにぎやかな場所からすこしだけ離れた暗がりまで歩いた。

水の音はあいかわらず続いていたのだけど、少しだけ落ち着き、歩いてくたびれたのか、宿にもどってすぐに寝付いた。

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