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バカ・ビヨンド:BakaBeyond "Spirit of the Forest"

バカというのはカメルーンの伝統的な音楽ということだ。イギリスのボーカリストの Su Hart と彼女のパートナーMartin Cradickが彼の地を訪れてその音楽に刺激されて 1992年に作ったバンドが "Baka Beyond" ということである。

その当時のワールド・ミュージックと分類された音楽はたいてい押さえていたつもりでいたが、最近までまったく知らなかったのはまことに迂闊であった。

もっとも、最近になって改めていろいろな音楽を興味にまかせて聴いていると、こんな有名どころを知らなかったのか、と思い知らされることも多く、このバンドもその中の一つだ。

今年で結成30年ということだ。

アイルランドのセルティック音楽を融合させたともいうが、あまりそういう感覚は感じない。

現地のパーカッションによるポリリズムをベースに、素朴なつくりの竪琴や口琴や笛、曲によっては昆虫や鳥、動物などの現地の音も交えながら、ギターをはじめとした西洋の弦楽器やボーカルなど比較的聴きやすいアレンジでの音作りだ。自然に顔がほころび、足や腰がリズムを刻みながら、仕事のBGMで聞き流すにもちょうどいい、そんなバランス感覚が具合いい。

不機嫌な音、口論や争いの音などが森に響くと、森も機嫌悪く、狩猟も採集もうまくいかない、という。皆が楽しく歌い踊る、そのような音が森に響くと、森も機嫌よく、豊かな実りをもたらすという。

音楽は誰かに演奏され誰かに鑑賞されるものではなく、集まって演奏し歌い踊って皆で奏でられるものなのだ。

貴重な音源と映像とともに、Martin Cradick 御本人が解説する動画シリーズPart 1 - Part 5 がYouTube で視聴できる。

このようにソフィスティケイトされたレコーディングではなく、もっと土着の生の音が好きな人もいるかもしれない。また、これこそが現地の豊かな資産を西洋のミュージシャンが搾取する構図だと思う人もいるかもしれない。

しかし、鑑賞したり評価したりするのでなく、博物館に保存するわけでもなく、私たちの生きる時代に、そこに普通にあって一緒に楽しめるリズムとメロディを求めると、この Baka Beyond のような音がいいのかもしれない、と思ったりもする。

熱帯雨林の気候は、雨は多いものの森の中はそれほど暑くなく、年間通じて26℃程度だと聞いたことがある。日本の夏のエアコンを効かせた室内は、実は遠い祖先が生きた熱帯雨林の気候を再現するものだという。本当だろうか。

そんなことに思いを馳せつつ、最近、よく聴いている。


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