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【人事に効く論文】上級管理職が心理社会的安全風土をつくる → Psychosocial safety climate as a precursor to conducive work environments, psychological health problems, and employee engagement.

Dollard, M. F., & Bakker, A. B. (2010). Psychosocial safety climate as a precursor to conducive work environments, psychological health problems, and employee engagement. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 83(3), 579–599.

1. 30秒で分かる論文の概要

仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)に関連して、心理社会的安全風土(psychosocial safety climate)という新たな考え方を提唱した論文です。オーストラリアの19の学校に勤務する教職員を対象に3回の調査(初回に対し、2回目が6週間後、3回目が1年後)を実施し、すべて回答した209名分のデータ分析に基づいて以下の仮説が検証されました。

(1)a. 心理社会的安全風土は、仕事の要求度との負の関係を通じて、心理的な健康問題と間接的に負の相関を示す
→ 強く支持された

(1)b. 心理社会的安全風土は、仕事の要求度と心理的な健康問題との正の関係を緩和する
→ 心理社会的安全風土は、感情的な要求度と感情的な疲労の関係を緩和した

(2) 心理社会的安全風土は、仕事の資源との正の関係を通じて、ワーク・エンゲイジメントに正の効果をもたらす
→ 心理社会的安全風土は、仕事の資源の一つであるスキル裁量との関係を通じて、ワーク・エンゲイジメントに有意に影響した

(3)a. 心理社会的安全風土は、仕事の資源との正の関係を通じて、心理的な健康問題と負の相関を示す
→ 支持されなかった

(3)b. 心理社会的安全風土は、仕事の資源と心理的な健康問題の間の負の関係を緩和する
→ 支持されなかった

2. 私的な解説/感想

この論文での定義によると、心理社会的安全風土(psychosocial safety climate)とは「従業員の心理的な健康と安全を守るための会社や職場の方針・慣行・手順」であり、心理的・社会的なリスクや危害から従業員を解き放つものです。Edmondson (1999)の心理的安全性(psychological safety)とは位置づけが異なるので注意が必要です。
また、特に重要なのは、心理社会的安全風土に対する上級管理職の影響です。心理社会的安全風土=会社や職場の方針・慣行・手順なので、それらを決定する立場にある上級管理職による影響がとても大きいのです。当論文での調査でも、上級管理職が従業員のWell-Beingを重視しなかった場合、業務スケジュールや仕事量調整への気配りの欠如といった要因から、仕事の要求度が高まってしまい、健康状態の悪化といったネガティブな結果につながることが分かったそうです。

3. 読後の余談

職場の風土に対する組織長の影響って大きいですよね。この論文はその証左といえます。横暴な組織長によって冷え切った職場風土にあるようであれば、この論文を会社経営層に突き付けてみてください。(その結果は保証しません)

4. 関係性の高い論文

Bakker, A. B., & Demerouti, E. (2018). Multiple levels in job demands-resources theory: Implications for employee well-being and performance. Handbook of Well-Being.

2022年3月2日 初稿作成

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