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【本心】

主人公は私と同い年の29歳だったのだが、母親の死後、『母から祝われることのない初めての誕生日から数日を経て』という冒頭の文章がとても生々しく、いつか私にも訪れるであろうその日を想像させた。以降もリアルな想像を駆り立てる生々しい表現の多さに自分を重ねながら読みました。

本書の大きなテーマが【自由死】【本心】【最愛の人の他者性】でした。著者の平野氏は『分人主義』を唱えていて、私もこの考え方に共感していたのだが、それはあくまで自分自身の分人で他者の分人を見た時の自分が他者に求めている姿との乖離を想像できていなかったのだと今作を読んで痛感した。

当然、他者も私に見せない別の顔があり、別の人間関係がある。他人は自分を中心に生きているわけでは無いという当然のことを思い知った。自分が最愛の相手のすべてを理解しているなどと考えるのは傲慢であり、しかし最愛の相手だからこそすべてを理解したいと考える気持ちも凄くよく分かる。

【自由死】という決断も含めて他人の本心に触れる、ましてや他人の気持ちを自分の思い通りにコントロールすることなど出来ないのだ。他人の【他者性】を認め、そしてせめて自分に見せてくれている部分だけでも理解したい。その為に他者の気持ちを想像し、聞く耳を持ち、対話を重ねることが重要だと思いました。とても面白かったです。

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