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【#現代4コマ】現代4コマ・2024年5月期“X”いいね数トップテン

昨月、現代4コマの中で「いいね」の反響の多かったものをピックアップする企画を行いました。

今後継続するかはちょっとわからないのですが、もう少しサンプルがあったほうがいいだろうということで第二回目のピックアップ紹介記事です。

前回も但し書きしたとおり、本企画では優劣を定義するのではなく、界隈外に影響するような現代4コマとはどんなものか?を探っていただければと思っています。

なお、2024年6月10日時点での集計となります。その後の前後はあるかも。

※今号では構成の都合上11作品掲載しています。


11位

いととと「読まずに食べた」 / 87 likes

初っ端からこいつの作品だ。。。

童謡「やぎさんゆうびん」の、現代4コマ的翻案。物語を現代4コマのミニマルな表現で表す試みの一つでしょう。

しろやぎさんから おてがみ ついた
くろやぎさんたら よまずに たべた
しかたがないので おてがみ かいた
さっきの てがみの ごようじ なあに

くろやぎさんから おてがみ ついた
しろやぎさんたら よまずに たべた
しかたがないので おてがみ かいた
さっきの てがみの ごようじ なあに

「やぎさんゆうびん」作詞:まどみちお

食べたのはどっちのヤギなのか、それとも誰でもない「何者か」なのか……とにかく読まずに食べられたという事実だけがあるようです。

しかしまあ、こういう系統の現代4コマって、読者の記憶をわかりやすく刺激して呼び起こすんですよね。だからこその反応といえる。
読まずに食べたのだというその経過、その様子を我々は「聞かずに読ん」でしまうというわけです。

ところでこの作品、4コマ目はもはや存在していませんが、不思議と4コマと認めてしまうところがあります。どうして4コマと認識できるのでしょうか。
わずかに残ったかけら、それを残した余白がそうさせる、としか言いようがありません。まるで土器の「復元」として、わずかなカケラから全体像を作り上げるがごとく……その想像の範囲は拡がってしまっています。

そんな、気がついたら作者による巧妙なトリックに洗脳されてしまっているのです。余白が4コマ目であると刷り込まれる、補完4コマといえます。


10位

いととと「そり立つ4コマ」 / 89 likes

TBS系列で放送されているアスレチック競技番組、SASUKEに登場する関門「そり立つ壁」が4コマに生まれ変わって登場だ!

かと思ったら胴体も二つに分かれている。どういうことだよ。

あるいは、巨大な曲面型のディスプレイで、そり立つ壁の様子を生さながらに楽しめる体感型のモニュメントとか、そんなところなのかもしれません。

いや、どう考えても何も考えられていない

それにしたって、このいとととという作者は記憶の重箱の隅をつつくような作品が多いですね。普段はどうでもいい割に、掘り起こされたら掘り起こされたで面白い出来事は、この世にごまんとある。このつつきかたはよくわかんねえけど・・・

そういえば漫画版『SASUKE』は今春公開予定とされてたけど、もう6月ですね。進捗どうですか。

9位

いととと「一周回って面白い」 / 95 likes

前号に引き続き、怒涛の3連いとととで開幕の当ランキング。

3本目は、「つまらない」と書かれたコマが自由落下の末に「面白い」になっている作品です。表題にあるそのままの言い回し、慣用句を4コマ化してみたというおもむき。

・・・いや・・・どっからどう見ても半周だよな・・・だって「つまらない」が上下逆になって・・・それで「面白い」になってるんだから・・・。

でもそういう瑣末な有無は言わせない勢いがこの作品にはあります。
わざわざ「一周回って『面白い』になるまでのプロセス」を想定して視覚化するという段階を踏んでいるのがこの作品の妙で、そもそもない心象風景が愚直に表されている。だからどうした、なんて言葉を言う暇もありゃしません。

だからどうしたっていうんだよ!!!!!!!!


8位

んぷとら「ソリティア」 / 121 likes

Windowsに搭載の「ソリティア」ゲームのクリア演出を4コマに適用した作品。特定の世代に刺さる系4コマですね。

コマが軌跡として連続しながら、跳ねて落ちていく様子は綺麗の一言。きっと誰かがこの4コマをクリアしたんでしょう。なかなか、えも言われない視覚的魅力のある作品です。

んぷとらは、あるモノにかけられるエフェクトを4コマに適用したらどうなるか、というアプローチを多く用いる作家といえます。例えば「水玉コラ」とか、惜しくもランクインしませんでしたが同月発表の「放課後」「突風」などにもその傾向がみられています。

つまり、数量とか時間よりも状態から始動するような視座を有しているんですよね。現代4コマ誕生1年以上前の初期から現代4コマ活動に参加している彼ですが、いとととが様々な場面の中から4コマを「くり抜く」のを得意とするのに対しては、「こねる」みたいな少し異なる思考で挑んでいるような感触があります。


7位

きのじ「ᏌHƆᑎ⅁」 / 138 likes

彗星のごとく現れた東大現4作家きのじの出世作にして問題作。

あらゆる物質や表現に存在する『天地』の概念を巧みに活かした、いかにもアングラ然とした作品です。さも面白表現ですというような作品の多い現代4コマにあってなかなか異質。

コマが進むごとに時間が進む。時間が進むと何かが近づいてくる。そしてそれはある点からある点、上から下への運動であり、それはコマの流れの中に表すことができるわけです。

4コマという媒体が何であるか、という点に立ち返ることのできる作品でもあるといえ、4コマ漫画集にギリ載せられるか載せられないか、というラインにゾクゾク来ます。ガロ、いけるか?


6位

いととと「雨天決行」 / 177 likes

これはどういう場面のくり抜きだよ。4コマが実存として在って、しかも天気に恵まれなかった時のシーンです。なんならタイトルの文字も見えない。

4コマを立てることが何か大事なことだったんでしょうか。トーテムポール立てるとか、卒塔婆立てるみたいな、何か精神的に重要な行事だったとでもいうのでしょうか。
あるいは、雨の中に立っていなければならないほどの、何か執念がそこにあったのでしょうか。

雨を線として描画したのは、日本の浮世絵師・歌川広重が世界で初めて行ったとされています。それ以前はといえば、世界のどこででも、絵の世界の雨は、霧とか筋のような感じで俯瞰的に、朧げに捉えられるものだったのです。
群でなく個の点に注視した表現者の観点、というのは現代4コマにおけるコマへの視点の違いに通じるものがありますが……。

ただでさえ、環境や言語によっても、捉え方には差があるのだとされています。そう思えば、日本の文化圏に居る人たちが今は多い現代4コマを、日本の文化圏でない方が作ったら、どの視座に立つのか。4コマをどのように捉えるというのか。ここ、結構気になるところではないでしょうか。


5位

いととと「使い切った」 / 262 likes

10位の「読まずに食べた」とやり口が同じです。
経過を四分割してみせ、それが4コマという形にみえるよね、という気づきの作品ですが、より生活密着型の題材であることも手伝って伸びたようです。

4コマ目を見てやっとわかるのですが、この作品はトイレットペーパーの使用の経過を表しています。ギザギザもそういうことなわけですね。すり減って、最後には芯だけになる。

ペーパーを引っ張る方向に逆行する構図がなんだか頭の裏側をくすぐってくるみたいな感じもあります。この順番なんだ。


4位

いととと「二択ミスった」 / 271 likes

爆発オチなんてサイテー!なんて常套句ができるくらい、定番中の定番なのが、最終盤に爆発を仕掛ける「爆発オチ」。西部警察なんかが代表例ですな。
もう一方、仕掛けられた時限爆弾の導線のどちらかを切らなければ爆発してしまう、なんていう物語の展開なんてのも腐るほど定番とされていますが、こちらは通称を「ワイヤージレンマ」といい、1974年の映画「ジャガーノート」に端を発したミームで、洋画やコントなどの定番演出として知られるようになっています。

それを扱っているこの作品、3コマまではただただ2本のワイヤーが続くのみで、タイマーは存在していないのに刻一刻と迫り来る時限を感じさせる……というこの部分こそ、「4コマ」という媒体を扱っているならではの表現であり、体験ではないかなと感じます。

ミスんなよ。


3位

いととと「奇跡的にレーザートラップ避けられた4コマ」 / 1,520 likes

4連続、累計7個目のいとととランクイン。とうとう1000いいね超えが出ました。

レーザーに引っかかると体がバラバラに切断されるか、探知されて警告が鳴り響いちゃうんですよね。これは「ミッション・イン・ポッシブル」「ルパン三世」などでみられる仕掛けです。縦横無尽に、コマと色の異なる線を配置するだけで「それ」に見えるあたり、刷り込みもなかなかのものだと思います。

さしずめ怪盗4コマ、あるいはスパイ4コマといったところか、と思うのですが、タイトルにいわく「奇跡的」らしいので、一般4コマが偶然この暗闇に迷い込んでしまったのでしょう。かわいそうに。

また、コメントでは「1コマだったが、レーザーに切られたせいで4コマになった」というセイデコマニーの法則を疑う声もありました。真相やいかに。


2位

桜桃 / 八止「漫才」 / 1,540 likes (+3,060 likes)

ある役割になりきりあい、何やら自動ドアがウィンと開く。これは日本のお笑いコンビが行う「漫才」の様式の一つ、コント漫才における導入部のテンプレです。創始したのは1980年代のウッチャンナンチャンだと言われています。この共通観念を4コマのフォーマットに落とし込んだのがこの作品。

「4コマ漫画」における『吹き出しとコマ』という構成要素のみを残し、コマを分割させて自動ドアに見立てるという舞台装置的な用法を表現しています。

この作品が伸びたのは、「100いいね以下の名ツイート集」というアカウントが取り上げたことによる界隈外への訴求です。元投稿の約一週間後に投稿が行われました。

タグこそついていないもののこちらの方が伸びてたりしますね。スクリーンショット内では42いいねとなっています。現代4コマにおいても、タイミングや機会次第で、後から数字を伸ばすことはできるのですね。

※公開時、集計漏れがありました。失礼しました

1位

リタ伯爵「アンケート」 / 約42,000 likes

リタ伯爵の作品、跳ねる。

先月もランクインしていた謎とき作家リタ伯爵が、圧倒的発想力によって圧倒的1位をもぎ取りました。

元ネタは、日本で言わずと知れたB'zの有名楽曲であると、思われます。わかんないけど。みんながそう思ってるだけかも。

ただ、設問が一つの項目にさえ示されていないにもかかわらず、一つの法則に従った時に選べる「正しい選択肢」がこの4コマには存在し、回答することが出来る、というのはまごうことなき事実です。

このミニマル感こそ現代4コマ。現代4コマでありながら、謎でもある、というリタ伯爵の真骨頂極まれりな作品でした。


いかがでしたか?

前回よりもまして具体的なモチーフを持った作品に反応の集まった月だったのではないでしょうか。何より、全体的な反応数が多かったです。

ランクインしなかった作品の数字も軒並み高く。東京大学での催しも相まって、なかなか盛り上がった月だったのではないでしょうか。

何よりいとととが強すぎる。十分の七がいとととです。本人談ですが、何気なく出した作品が大きな反応を得たりしているようで、不思議な月だったと思います。
一方で桜桃は外部メディアに取り上げられたことで数字を伸ばし、リタ伯爵は自身の得意とする謎要素を含んだ作品で4万いいねもの反応を得ていますね。

皆さんの印象に残っている5月の作品は、このランキングの中にいくつありましたか?むしろ、何個ランキングにない作品を印象に持っていましたか?忘れないうちに振り返っておくと、よいと思います。

実験的表現もかなり多く、ランキングでは計れないほど色々な出来事があった2024年5月期。ただ、反応としてはこんな感じだった、というわけです。

次回やるかはわからないけど、とりあえずまたお会いしましょうということで。

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