お金を乗りこなしたピカソ
ゴッホの人生であまりにも有名なのは、多くの職を転々としながら苦労して画家となり、ゴーキャンとの共同生活が破綻した後、自らの耳を切り落としてしまったエピソードであろう。ゴッホは、弟テオの理解と援助のもとで創作活動を続けることができたが、その2000点にものぼる作品のうち、生前に売れた生前に売れた絵はわずか一点のみだった。
ゴッホは生きている間は極貧だった。
91歳で生涯を閉じたピカソが、手元に遺した作品は7万点を数えた。それに、数カ所の住所や、複数のシャトー、莫大な現金等々を加えると、ピカソの遺産の評価額は日本円にして約7500億円にのぼったという。
一方でピカソは生前に儲かっていた。なぜこんなに違ったのか。
自分の絵を販売することに関しては天才的で、ピカソは新しい絵を描き上げると、なじみの画商を数十人呼んで展覧会を開き、作品を描いた背景や意図を細かく説いたという。
ピカソは「モノ」ではなく「物語」を売り、かつたくさんの画商を呼んで自然競争させ価値を吊り上げた。
シャトー=ムートン=ロートシルトというフランス・ボルドー地方にある有名シャトーのワインがある。この一本5万円はくだらない高級ワインの1973年モノのラベルは、ピカソがデザインしている。そして、その対価は、お金ではなくワインで支払われた。ピカソの書いたラベルの評判が高ければ高いほど、ワインの価値は高まり、高値がつく。
ピカソがそのワインを貰えば、自分で飲むにしろ売るにしろ、価値が高い方がいいので、双方に利益のある話である。
商店主は小切手を銀行に持ち込んで現金に換えてしまうよりも、ピカソ直筆サイン入りの作品として部屋に飾るなり、大事にタンスにしまっておくだろう。そうなれば、小切手は換金されないため、ピカソは現金を支払うことなく、実質的にタダで買い物を済ませることができる。
ピカソは自分の価値をよくわかっていて、それをうまく使うことで、お金を使わずにものを交換していた。
このようなピカソのエッセンスを呼水に、お金が生まれる正体を分解していく。
お金は「価値」と「信用」で産むことができる。
「価値」は自分の価値や強みによって他人や事業などに貢献し、その対価としてお金を得る"マネタイズ"の世界である。ピカソが画商を呼んだエピソードはこれ。
「信用」は自分の一貫した信念やコミットメント作り上げる信用創造(キャピタライズ)の世界。ピカソが好んで小切手を使ったエピソードはここを使っている。
これに加えて、「お金を使わないで価値を交換し合う」方法がある。これは上記図の価値と信頼の矢印で、信用の土台がある関係では、お金を介さない"物々交換"が成り立つ非貨幣経済の世界。ピカソがワインの現物による報酬でラベルを描いたのはここにあたる。
このように、価値と信用の作用を捉え、それぞれを磨き上げて、お金と付き合っていくことが重要なんだろうな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?