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お金の管理を中央銀行から民主化していく世界の動き。

地域通貨入門を読んだ。成長を前提とした現代の通貨システムに限界があるので、新しい通貨システムを提唱する本。

地球環境と経済の双方が深刻な問題を抱えている今日、この観点から通貨システムについて再考する必要があるといえます。お金は「何かを交換手段として使おうという地域社会内での合意である」(ベルナルド・リエター)以上、地球という「地域社会内」で私たちが「持続可能な経済構造」を目指すのであれば、それが可能になる通貨システムをデザインすればよいわけです。

お金は、価値尺度と交換手段と、貯蓄手段があるのだが、そもそも、

交換手段と貯蓄手段は、両方いっぺんに達成することはできません。日本語には「カネは天下の回りもの」という表現があり、お金は流通して初めて価値が出るという考え方もありますが、誰もが手にしたお金をすぐに使ってしまった場合、貯蓄手段としての役割は果たすことができません。また、逆にみんなが将来に備えてお金を貯め込んでしまった場合、日頃の取引にお金が使われなくなり、その結果経済活動が停滞してしまいます。交換手段と貯蓄手段というお金の機能は、どちらも今の経済を動かす上で大切な役割を果たしていますが、実際には「あちらが立てばこちらが立たず」的な相互矛盾を抱えているのです。

という関係なのだ。今の世界では、政治家も経営者も経済成長の大切さを論じるが、それは詰まるところ複利という金利システムのためだ。

ケネディさんは、その著者で面白い資産を出しています。彼女によると、仮に紀元元年に誰かが1ペニヒを年利5%で預けた場合、1990年現在ではなんと地球の1340億倍もの大きさの金塊と等しい計算になります。しかし、どんな資産家や企業家が束になっても、これだけの利息は当然ながら支払うことはできません。もちろん2000年もの長い期間お金を預ける人は実際にいないことでしょうが、この例え話だけでも通貨システムに無理があることはお分かりでしょう。

理論的には経済成長を前提とした複利には限界があり、持続的なシステムではないという。

例えば、福岡市営地下鉄の経営状況を見てみることにしましょう。地下鉄を運営している交通局の2003年度の決算によると、運輸収益が187億円、運輸雑収益が15億円で合計202億円の収入があるのに対し、地下鉄職員の給料や地下鉄運行の経費として90億円、減価償却費で80億円、さらに地下鉄を作るときに借りたお金の金利が99億円あり、合計で269億円の支出が発生しており、実際には補助金を受けてやっと黒字になっている状態です。

経済成長と金利のバランスが合わなくなってきていると。

今の日本円という「合意(=お金)」には、いろいろな問題があります。例えば、グローバリゼーションが進む中で地元にあった工場が潰れて行ったり、銀行からなかなかお金を借りることができなかったり、富の格差が拡大したり、といった点です。(中略)。日本円だけを使っていてはこの状況を解決できないのであれば、日本円と同時に、その日本円だけではうまくいかない点を補完するシステムが必要ではないでしょうか。

このような問題を解決するために補完通貨である、地域通貨があるという。

バンジャールとは、10世紀に最古の記録がある由緒あるシステムで、今もバリ島の住民の大多数が参加しているのですが、これを簡単に説明すると数十家庭から数百家庭が所属する町内会であり、島内各地にこのバンジャールが存在します。そしてこのバンジャール間で、インドネシア・ルピアとナヤハン・バンジャールと呼ばれる島内通貨が併用されているために、バリ島の文化が守られているということです。

現在もバリでは法定通貨と補完通貨が存在しているようだ。

バリ島では数多くの伝統的な催しが行われており、これらはバリ島民にとって不可欠なものです。しかし、インドネシア・ルピア経済の方でお金をたくさん稼いでいる人はそのお祭りに出演する時間がなく、逆にお金をあまり稼げない人は時間の方はたっぷりあります。そのため、インドネシア・ルピアと交換できる条件でナヤハン・バンジャールを発行し、それらのお祭りに出演する人にはあくまでもナヤハン・バンジャールで謝礼を支払うことで、最終的にバリ全体でその富を共有していくことができるわけです。

これをみると、もはや分業をして価値交換(今回はルピアとバンジャール)しているだけなので、これ自体が手段としての通貨を成り立たせている。

なお、このナヤハン・バンジャールでの取引の行方を決めるバンジャール同士の会議がほぼ毎月行われているのですが、この会議には各バンジャールから民主的な手続きで選ばれた代表が参加することになっており、ナヤハン・バンジャールの民主的な管理が間接的な形で行われています

この辺りも、民主主義で運用されているのも新しい。

日本円や米ドルなど今の通貨は科学技術や中央権力、権威が支配するタテ社会、競争、一時的な繁栄、それに理屈など、男性的=陽的な価値のものを推進する傾向にある一方、人間同士の対話や相互信頼、平等主義が基本のヨコ社会、協力、持続性、それに直感など、女性的な=陰的な価値のものがどうしても疎んじられる傾向を取り上げています。ですが、実際には陽的な側面と陰的な側面はどちらも人類の発展において大切なものですから、これらの均衡をとる必要があるとしています。

前者が法定通貨、後者が現在であればNPOであり、これからは地域通貨であるということだ。

現在の通貨システムは、下記のような欠陥を抱える。

1) 私有制で、私企業の手で私企業の利益に沿う形で運営されているため、一般市民がお金の発行やその流通規制を制御したり、それに関する意思決定ができない。通貨は市民ではなく企業を保護する。

2)銀行融資のお金は金利がつくのでコスト高、金利は発行者のみが利益教授。市民は利益を分かち合えない。

3) お金を蓄えたものが強い。本当に必要な人にお金が循環しない。これは資産の80%が20%の人の手にあることが示す。

4) 金利は指数関数的なカーブだけど、それは現在の通貨流通量をすぐに超越する。持続可能性はない。

これらの解決策の一つにシルビオゲゼルの減価する貨幣(ここは以前で書いたので割愛)や、

補完通貨が挙げられている。

補完通貨のシステムとして、世界で一番知られているシステムはLETSだろう。カナダのバンクーバー市近郊の炭鉱の閉山後地域の人たちが失業して生活に困っていた状況を見たマイケル・リントンさんが、現金なしでも自分たちの間で取引をやっていって生活を下支えするために開発したものだ。

主に労働階級や失業者、職にありつけない人たちなどが、このシステムを好んで使うようになり、その後、カナダだけでなく、アメリカやヨーロッパ各国、オーストラリアやニュージーランド等々世界各地へ広がっていった。

本の中の説明よりも、こちらを見た方が早い。受けたいサービスと提供できるサービスを登録し、報酬も自分で決めて、サービスの交換をする。個人的には、ココナラである世界を法定通過じゃなくて、地域通貨にしたようなイメージだ。

ちなみに、地域外からの商品の仕入れなどは法定通過がどうしても必要になるが、ここはLETSがカバーできない。こういう性格のため、近所の人同士での取引などには向いているが、地域経済全体を活性化する道具としてはちょっと力不足だ。

アメリカにはこれとは別に、タイムダラーというシステムが生まれました。これは、弁護士をしていたエドガー・カーンさんという人が創設したモノで、今の資本主義経済の中では評価されない高齢者の介護や家事手伝い、勉強内容の教え合いなど、普通の米ドル経済ではなかなか活発にならない分野で、タイムダラーが効果を発揮しています。また、ある貧困地区では企業と連携した上で、勉強を下級生に教えてタイムダラーを集めた子供に中古のパソコンを与えることで、タイムダラーに参加しようというやる気を盛り立てています。なお、LETSについては税金がかかる国もありますが、タイムダラーは先ほど述べましたように普通の米ドル経済の対象にならない分野にもっぱら使われているため、課税対象にはなっていません。

1時間の労働=1タイムダラーという通貨で成り立つ経済圏。運営の経費は寄付でカバーしながら今の資本主義経済では手の届かない部分をサポートしている。

本よりも、これの説明がわかりやすい。

他にも、本ではアルゼンチンの交換クラブ(CtoCの物々交換の通貨)・イタリアのLIBRA(商店のポイントカードの仕組みをNPOへの寄付と組み合わせた仕組み*facebookのではない)・スイスのWIR銀行(スイスフランと同じ価値を持つ独自通貨で企業が差し出した担保に応じて発行される通貨)・ドイツのキームガウアー(法定通過を担保として流通する地域通貨)・フランスのSOL(これまで特に経済的なつながりがなかった連帯経済の各セクターをつないでいく通貨)など、幅広い事例の紹介がされている。

一般市民が自分たちのお金を自分たちで管理できるような社会を作り出していく試みは全世界で行われている。日本でも大阪で始まった「ふれあい切符」、「エコマネー」、愛媛県の島で行われた「だんだん」、キングコング西野さんの「レターポット」などがあるが、まだまだ認知は低いしインパクトはない。この辺りのデファクトを取れたら面白いと思う。




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