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チェスと太極拳で世界をとった著者が語る習得の技術

習得への情熱を読んだ。小5で全米中学生チェス選手権を優勝し、数々のタイトルを総なめしてきた著者が、途中で太極拳の世界へ入り、そこでも世界選手権のタイトルを総なめにしていく。そんな中で得たエッセンスを言語化していく本。異なる2つの世界の頂点に上に登った人だからこそ書ける内容だ。

(頂点に繋がる狭き門を潜れるかのポイントは)やる気を誘発するように考え尽くされた学習アプローチ、様々な異なった分野で探求した内容同士を関連づけることの能力、日々のプロセスを楽しむことという3点にあると思う。

筆者は成功者の共通点はこれにあるという。ここで面白いのは、この3点は過去の経験でも未来のビジョンでもなく、今この瞬間の取り組み方であること。

 発達心理学の研究の中に、ある課題を習得する能力についての研究や、アプローチと学習能力の相関関係についての研究がある。発達心理学という研究分野をリードするキャロル・ドラエク博士は、人々が知能というものをどう捉えて解釈しているのかについて、その解釈の違いを、実態理論と増大理論に区分した。「実態理論者」の子供たちは、「自分がこれが得意だ」という言い回しをよく使い、成功や失敗の理由を、自分の中に深く根付いて変えることのできない能力のレベルにあるとする傾向が強い。つまり、ある特定の課題における知能や技術のレベルそのものを、進歩させることのできない固定された実態として捉えているということだ。

実態理論者は自分を勝手に枠組みにはめてしまってそこを出ない。


 一方で、いろいろな方法を駆使しながら学習する増大理論者は、結果が出たときに「頑張って取り組んだおかげだ」、または、「もっと頑張るべきだった」というフレーズを使う傾向が強い。このように、知能のあり方を習得理論で解釈する子供は、頑張って取り組めば難しい課題でも克服することはできる。すなわち、初心者でも一歩一歩進むことで漸次的に能力を増大させ、ついには達人になることだって可能だという感覚を持っている傾向がある。

勝つ人は学習へのアプローチはいつでも改善できるという認識を持っていて、一歩一歩前に進む考え方。

目先のトロフィーよりも、頂点を目指す過程の中で学んだことの方がずっと意味があることを知っている。

というように、結果ではなくプロセスを重視するという。

子供は決して勝負にこだわるべきではないと結論づけるのは簡単だ。でも僕はそう思わない。ずっと勝負にこだわることなくやってきた子供が、ある特定分野で秀でた存在になりたいという志を持った時、そこに必ずついて回る困難に立ち向かえるだけのタフさはおそらくその子には備わっていないだろう。成績や結果に執着しすぎることは明らかに不健全だが、しっかりとした長期的育成方法を視野に入れて、バランスを保つ前提があれば、目先に目標を置くことは成長するためのツールとして有効だ。

ただ、プロセスが一番大事ではありながら、ゴールに向かう経過地点としての勝負は重要なのでバランスは保つべきと。

(自分が苛立つ人が出てきた時)対処法は自分の感情を否定するのではなく、むしろその感情をアドバンテージとして利用することにあるのではないかと考えるようになった。自分を押さえ込むのではなく、その時の気分にピッタリと周波数を合わせることで集中力を高めなければならない。

勝負をしていると、苛立つ相手が出てくるが、それは成長のチャンスと捉えて取り込む。この苛立ちから逃げたり封じ込めたり戦ったりしない。

ハイレベルなパフォーマーへと変化しようとする時、特に大切にすべきことの一つは、大きな目標に向かって突き進もうとする心理状態と持って生まれた気質の調和を保つこと。

とあるように、障壁が現れようとも、心理状態を安定させて、前へ進む。

人々は華麗なテクニックに気を引かれてしまいがちなので、ごく微細でデリケートなものを吸収して磨くことの方が色とりどりの技を学ぶことよりもずっと重要なのだという事実にはなかなか気がつかない。

人は外的なトレーニングはするが、内的トレーニングはあまりしない。でも本当に大事なのは、内的トレーニング。自分の精神状態だ。

どんな分野であっても、頭を冴え渡らせ、今という瞬間に心を置き、猛攻を冷静に受け止められる能力があるかないかで凡人と優秀な人の差が出るのではないだろうか。

と整理されているように、内的トレーニングを積んで、今この瞬間に自分を置けるかどうかが大事。

ソフトゾーンを発達させ、自分の感情を受け入れ、その感情を観察し、感情の海が船を揺らしているときには、それに身を預けることを覚え、また感情が創造力の燃料となっているときには、それを利用することを覚えるように取り組む。

自分の内部が整ってきたら、次は自分の感情をうまく扱う。

自然に湧き上がってくる感情を拒絶するのをやめ、ナーバスな感情がシャープな試合感覚に変わり、恐怖心が油断のない警戒心に変わり、怒りが高い集中力に変わるまで、徹底的に弱点を強みに変えてゆく、その上で、どの感情が自分にとって最良のパフォーマンスの引き金として相応しいかを見つける。

感情をうまく扱えると、ネガティブな事象がポジティブな環境に変換される。逆風をうまく利用して前に進むことができる。揚力みたいなものだ。

この本の中では、上記のそれぞれのプロセスの中を、著者が実際の体験談踏まえ、その時々でどこまで考えて、何を行なって、どう気づきを得ていくのかがわかる素晴らしい本でした。






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