『プラネピタ』 デザイナーノート①ゲームデザイン編
こんにちは、シュピラボのゲームデザイナー藤縄です。
2022年春に制作したボードゲーム『プラネピタ』について、どのようにゲームルールを考えたかという話をします。
コンポーネントやアートワークの話はほぼ出てこないので、全体的に硬めな内容であることを始めにご了承ください!
想定している読者
この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2022の2日目の記事として登録しています。
基本的にゲームデザインに興味があり、かつプラネピタのことを知っている人向けですが、知らなくてもなんとなく理解できると思います。
どんなゲーム?
『プラネピタ』は指で弾くカーリングのような陣取りゲームです。基本的にコマを順番に弾いて得点エリアに配置するのですが、
・打ったコマを裏返すと磁石で固定される
・ただし表のほうが得点は高い
という仕組みがあり、単純なアクションだけでなく戦略を考える要素があることが特徴です。
プラネピタを知らない方はまずこちらを御覧ください
着想
取っ掛かりはいわゆる「消しゴムを指で弾くやつ」です。
その時数ヶ月かけて考えていたゲームをボツにしてやることが無くなり、絶望しながらしばらく相方の堀と2人で木コマを弾いて遊びました。
面白いけどこれをボードゲームにするのは流石に無いかな、と思ったところでふとカーリングを思い出しました。
カーリングは単に中心に寄せるだけでなく、相手のストーンを弾き出したり、逆にストーンを手前に壁として配置したりなど、状況に応じて様々な戦術があります。自分はたまにテレビで見ていて、スポーツにしては考える要素がすごく大きいのが面白い!と思っていました。
この戦略性をテーブルで再現できたら可能性があるかもね、ということで早速テストプレイを始めました。
とりあえずやってみる
こういうのはまずやってみるのが早いので、すぐに手元の木コマを使ってカーリングっぽいゲームのテストをしました。
試してみたところ、弾くのは面白いのですが、交互にお互いのコマを弾き出し合う単調なゲームになってしまいました。
カーリングでは長い距離を氷の上を滑らせるため、そもそも正確に狙うのが難しいのに対して、こちらは距離が近く重さも無いため、簡単に相手のコマを弾き出せてしまいます。
このままでは戦略性が出せなさそうです。
裏返して固定する
コマがすぐに弾き出されなくなるよう、おはじきの片面にゴムシートを付けてみました。
ゴム面を下にすると、他のコマが当たってもほぼ動かなくなります。
突然物理法則が変わったみたいでこれは面白い!となり、先ほどのゲームに以下のルールを追加して遊んでみました。
裏返したコマは弾き出せなくなり、最後まで残るようになります。
また壁として機能するので、単に交互に弾き出し合うだけではなく「今の盤面で自分のコマを置くならどこがよいか」をちゃんと考えるようになりました。
まさにカーリングで見たやつです。
しかしこれだと毎回裏返すに決まってるので、表のメリットを残すために以下のルールを追加しました。
これによって
裏:安全だが点が低い(ローリスク・ローリターン)
表:危険だが点が高い(ハイリスク・ハイリターン)
という分かりやすい対比が生まれ、プラネピタの基本軸になりました。
反転コマからおじゃまコマへ
裏返すルールで面白くはなったのですが、
・序盤は基本裏返すのが強い
・(その結果)得点の伸びが地味
という問題がありました。
そこで何かプレイヤーを邪魔する存在があるといいかも?ということで考えたのが「反転コマ」というルールです。
この反転コマを相手のコマに押し付けることができれば、相手の得点を一気に下げることができます。
今までは途中で勝てなさそうとなっていた展開でも、最後まで逆転のチャンスがあるのでより面白くなりました。
しかしさすがにこれでは反転コマの影響が強すぎて、最後に押し付けたもの勝ちになってしまうので以下のように調整しました。
まずマイナス→0にすることで弱体化し、計算も簡単にしました。
また影響範囲を表に限定して、裏返すことでマイナスを回避できるようにしました。
反転コマルールで当初狙っていたのは
「裏返してエリアを確定すると逆に反転コマに狙われやすい」
→ 裏返してばかりの戦略が減る
ことだったのですが、こういう負の効果を持つ要素は対抗策が無いと理不尽に感じられてしまうので、結果的に裏返しがより安定になってしまいました。その代わりとして以下のルールを追加しました。
こうして反転コマルール、もといおじゃまコマのルールができました。
開発中に使っていた名称は発売前の検討でだいたい変えましたが、おじゃまコマだけは初期からずっとこの名前で、個人的にもとても気に入っています。
得点システム
「裏返して固定」「おじゃまコマ」というゲームの核となるルールができたので、あとは得点システムを調整すれば完成!なのですが、実はここからが長い道のりでした。
最初はシンプルに得点を積み上げていく方式でやっていたのですが、途中から物足りなさを感じてしまい「直接得点ではなく資源を介して勝利点に変換」にしてみたり「コマが全てそれぞれ能力を持つ」を考えてみたりなど、いわゆる「ボドゲっぽい」のメカニクスを組み合わせようとして完全に失敗してました。
ある日テストプレイしてもらった師匠(Bremen Games平野さん)の
「おはじきを考える部分が超面白いのにそれ以外が全部余計」
という言葉で目が覚め、
(一番の特徴の)盤面の争いにいかに集中させるか
という観点でなるべくシンプルになるように練り直しました。
具体的には
・コマをうまく配置できた人がちゃんと勝ちに近づく
・おはじきに寄与しない要素はいれない
・得点計算まで盤面だけで完結する
などの方向性を決めました。
あとは地道なトライ&エラーなので割愛しますが、結果的には今のエリアマジョリティ方式になり、このときの理想にだいぶ近づけたと思います。
ギミックとルール
これでゲームルールの話は終わりなのですが、読んでくださっている方の中には「磁石はいつ出てくるんだ」と思っている方もいるかもしれません。
プラネピタは磁石が大きな特徴なので、その話をしないのは不自然かもしれませんが、実際のところルール作りの終盤まで磁石は使っておらず、長らく最初に説明したゴムシートとおはじきを使ってゲームを作っていました。
結果的には磁石にしたことで手触りや取り回し、物理的な挙動の面白さがとてもよくなるわけですが、ゲーム自体は磁石がなくても成り立ちます。
ギミックをどう作るか決めずに作るのはリスキーとも言えますが、結果的には「打った後に表か裏かの選択で悩む」というゲームのコアの面白さに集中してデザイン出来たので今回に関しては成功だったと思います。
少なくとも「磁石を使ったゲーム」から出発してもプラネピタは出来なかったでしょうね。
おわりに
『プラネピタ』のゲームデザインを中心にお話させていただきました。
自分自身、作者の方の生の思考が垣間見えるようなデザインノートを読むのが好きだったので、多くの人には退屈かも…と思いつつもなるべく素のままに書いてみましたがいかがだったでしょうか?
長いのでここでは取り扱えませんでしたが、機会があったら今回話せなかったコンポーネント・アートワークの制作についてもいずれ紹介できたらと思います。
『プラネピタ』は初版を2022年4月に販売し、好評を受けてアップデートした第2版を現在boothで販売中です。
これが売り切れるとしばらく増産できない可能性が高いので気になった方はぜひこの機会にお買い求めください。
ここまで読んでくださりどうもありがとうございました。
シュピラボは次回作を鋭意制作中なのでぜひご期待ください!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?