【日記】R040725 ファ美肉のラストを4通り想像してみる

 はじめにナレーションで語られるように、『異世界美少女受肉おじさんと』は、おっさんと元おっさんのラブコメである。

 もう少し情報量を増やすと、もともとは32才のおっさんだが美少女として異世界に転生してしまった橘日向と、橘の武器として召喚されてしまった親友の神宮寺司が、RPGにありがちな「魔王を倒さなければならない」というミッションを女神から与えられて、冒険に満ちた旅をくり広げつつ、ラブコメもくり広げる物語である。実情を曖昧にぼかされているところではあるけれども、橘たちはお互いに芽生えた恋情を女神が与えた「呪い」と解釈していて、その呪いを解くために、つまり、かつて2人の中にあった男同士の友情を守るために、魔王と戦うことになるのだ。

 こういうシチュエーション設定なので、ベタにお話を見ていくと、「橘は元の姿に戻ることができるのだろうか?」「橘と神宮寺はくっつくことになるのだろうか?」ということが気になる作りになっている。というわけで、この2つの問いを軸にして、私なりに4通りのエンディングを考えてみた。

①「橘は美少女のままで、神宮司とくっつく」


 想像してみた中でいちばんありそうなラスト。この場合、橘たちを冒険に出発させた「2人の友情を守る」という目的が、おそらく物語の後半で、どんでん返しを受けることになるだろう。つまり、彼らを旅立ちへ駆り立てた当初の目的が、恋愛関係に発展する上での障害、解決すべき課題、回復すべき欠如へと変化する。これにラスボスとなる「魔王」との戦いがクロスしていくはずなのだ。きっと最後の冒険の前くらいで、2人の冒険の目的の再設定として、橘と神宮寺の恋愛関係が始まったり、発展したりする。

②「橘は美少女のままで、神宮司とくっつかない」


 この場合は、①に比べるとより早い段階で橘と神宮寺が恋愛関係に発展するような気がする。「友情関係を保つ」という当初の目的が、ただたんに貫徹されるではなくて、何らかの挫折を味わい、その目的が再確認されるようなどんでん返しがどこかになくてはならないからだ。だから、きっとどこかで2人は恋愛関係に傾き、かつそれが失敗する。このとき美少女橘と神宮寺の関係は、以前の男同士の「友情」とも違うあらたな「友情」として再定義されるのだ。このタイミングもラスボスの戦いの前だろう。

③「橘は元の姿に戻るが、神宮寺とくっつく」


 橘が元の姿に戻るというケースを考えて見たとき、橘と神宮寺が元の世界に戻るのかどうかということも気になる。いまのようにエンディングの意味を大きく切りとる方向で考えていると、意外にも戻らないような気がする。戻る場合には、これまで異世界で過ごしてきた人びととの関係も掘り下げられるはずで、他の多くの要素がつきすぎてしまうように思えるからだ。ちなみに、この場合は旅の中で2人の恋愛感情は強く描写されるが、関係自体は発展しないのに違いない。元の姿に戻り、男同士となった後でもその感情が持続するということがどんでん返しの種になるからだ。

④「橘は元の姿に戻り、神宮寺とくっつかない」


 このケースは、「行って帰ってくる」物語の典型で、橘と神宮寺が冒険を経て成長するお話だったことになる。②に似ていて、橘と神宮寺が恋愛関係に発展しそうになるが、それを拒否して元の関係に戻ることに決める過程が、どんでん返しの軸になることだろう。かつての男同士の友情が再確認され、「帰る」ことによってさらに成長が加わるはずだ。
 ところで、この物語で奇妙な味になっているのはおっさん時の橘のキャラ造形がモブキャラであることである。橘のキャラをあくまでも美少女として印象づけたいのかもしれない。もし橘たちが元の世界に戻り、通過儀礼を終えて成長を遂げた場合、橘の目は描かれることだろう。個人的な趣味だが、この④は考えて見るかぎりいちばんつまらない。

 こうやってエンディングのあり方を考えていると、エンディングが決まればそれに先立ってあるだろう「どんでん返し」の種類もだいたい決まってしまうような手応えを感じる。いちおう念を押しておくと、ここで語る「どんでん返し」とは、物語の最後に意外なエンディングを与える「オチ」のことではなくて、物語後半で主人公たちの「ほんとうの目的」「ほんとうの敵」を設定しなおすことを意味している。

 さらに言えば、「どんでん返し」の種類が決まれば、主人公が物語のなか味わう主たる「挫折」のタイプもある程度決まってしまうような気もするのだ。もし物語が通過儀礼と同じ形式を有しているのならば、「挫折」にあたるイベントは通過儀礼における「象徴的な死」であるだろう。すると、「どんでん返し」は、主人公が通過儀礼を終えて生まれ変わるよりも前に、「対象者」の意味が生まれ変わっていることになる。この辺り、丁寧に考えれば、よい教訓が得られることであるのかもしれない。

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