【朗読台本】存在しない日記②

note内で公開しているラジオ「このラジオはフィクションです」にてセルフ朗読しているオリジナル台本「存在しない日記」を公開いたします。

さっと話だけ読みたい方、フリーの朗読台本として使用したい方はご活用ください。
ご使用の際は当ページのURLをご紹介いただきますようお願いいたします。また、可能であれば読まれた音源をお聞かせくださいませ。(これは単に私が聴きたいだけです)

以下、台本。

📢「このラジオはフィクションです。実在の人物、団体などとは関係ありません。」


2021/01/05 PM6:57 曇りのち雪

今日は寒かった。
起きた時、外でやけに子どものはしゃいだ声が聞こえるなと思ったら、いつのまにか降っていた雪が積もったらしい。
カーテンを開けたら表の公園で、近所の親子が雪だるまを作っているのが見えた。

私が寝る前、朝の七時か、八時か……そのくらいの時にはまだ降ってはいなかったので、昼前くらいから降り始めて、午後三時。
今ようやく、雪遊びができるくらい積もりきったところだろうか。起き抜けにそんなことを考えたのを思い出す。

今年の初雪だな、そういえば去年の初詣はわざわざ元日に、雪の中を歩いて行ったよな。と、そこまで考えて、今年はまだ初詣に行っていないことを思い出したのだ。思い立ったが吉日だと、さっそく初詣に行くことにした。

そういえば、初詣っていつまで「初詣」なんだろう。今年になって初めて行ったらそれが初詣なんだと思ってたけど、それが夏とかになっても初詣って言って良いんだろうか。1月の何日までにやんないと、みたいなのあるのかな。過ぎてたらどうしよう。今日行っちゃったけど。

インターネットで調べてみた。
わからないことがあると、割とすぐ検索してしまうたちだ。

検索画面には、

「年神様がいらっしゃる松の内に参りましょう」

と書いてあった。
わけがわからなかったのでもう少し調べた。


年神様とは……
元旦、家々に新年の幸せをもたらすために高い山から降りてくる神様のこと、らしい。
祖先の霊が田の神や山の神になり、正月には年神となって、子孫の繁栄を見守ってくれると書いてある記事なんかも読んだ。

松の内とは……
正月を祝う期間のこと。松飾りを飾っておく間という意味。
関東を中心に多くの地域では一月七日まで、関西など一部地域では小正月である一月十五日までとされているらしい。

今日は五日だから、なんとかギリギリ、正しい「初詣」ができたことになる。
なんとなく、少し安心した。信心深いわけじゃないし、神様が実在するとか、あまり思ったことないけれど。罰当たりじゃないならそれに越したことはないよなあ。

ここに引っ越して来てまだ半年も経っていないから、このへんにある神社とか良くわからなくて。
でもいつも駅に行く途中、コンビニの向こうの雑木林の奥に赤い鳥居があったなって思い出して、そこに初詣に行くことにした。

初めて行く神社って、少し怖かった。
三が日を過ぎているからか、平日だからかわからないけど、とにかくひと気がなくって。

コンビニで適当に飲み物を買って、お札を崩してから神社のある雑木林へ向かった。
それも良くなかった。コンビニの袋をぶら下げて入るのはなんだか不作法な気がして、なんとなく後ろ手に持って、雑木林の奥にある赤い鳥居まで歩いた。
雪を踏む音と、草木が風に揺れる音、自分の呼吸する音、そういうのがやけに耳の近くで感じて、本当にこの世界には自分だけ、みたいな気持ちになった。
こういうことはよくある。

今思い出したけど、地面には自分以外の誰の足跡もついていなかった。今日あの神社へ行ったのは、本当にこの世界で自分だけなのかも知れない。

鳥居のところまで行って、なんとなく、左右の狛犬からじろりと見られているような気がして、作法とかは良くわからないけど軽くお辞儀をしてから、境内に入った。
こういうの、やらないより良いかな、と思ってついやってしまうことが多い。いらないところでお礼や謝罪の言葉をつい口に出してしまったりもする。
良くない癖なのかもしれないけど、きっとどれもやらないよりは良いだろう。

先の方に地元にあったお稲荷さんより少し大きいくらいの小さな社(ほこら)があって、石でできた階段が、申し訳程度の道をつくっている。
雪に足を取られないように一段一段踏みしめて登って、社の手前に着くと、さっきまでうるさかった風の音はぴたりと静かになって、神社に迎え入れられたような気持ちがした。
お賽銭箱に小銭を入れた時、ほかの小銭とぶつかる音がしたから、私より前にこの神社にお参りをした人はいたらしい。

簡単に、「昨年はお世話になりました。今年もお世話になります」みたいなことを心の中で言いながら手を合わせて、そのまま家に帰った。
帰る頃にはもう西の空は真っ赤になっていて、もう正月休みが終わってしまうななんて、もったいない気持ちになった。
今年のお正月は本当になんにもしないお正月だったな。

来年は実家に帰ってゆっくりできたらいいなと思うけど、今のご時世を考えると、来年も少し難しいような気もする。
今年はいろんなことが落ち着いて、いろんなことを気にせずに、のんびりした一年になると良いな。

そういうのを、神社でお願いしてくるべきだったかなと今更になって思った。
私がお願いしなくたって、もうほかの人がたくさんお願いしたんだろうけど。