日本に稲作が伝わって以来、米は火で炊いて食べられてきた。
その1000年以上の長い歴史の中で、
はじめチョロチョロ(浸し炊き、前炊き。吸水)
中パッパ(吹き上げ)
ブツブツ言う頃、火を引いて(沸騰維持)
ひと握りの藁燃やし(追い焚き)
赤子泣くとも蓋取るな(置き火むらし)
という、おいしく炊くための温度調節法が編み出された。
この「かまど炊き」を、スイッチを入れたら放置できる電気機器で再現するためには、その電気機器に、
①細かな温度調整
②釜全体を包み込むような火力
が必要である。
①はマイコン(マイクロコンピュータ)を搭載することによって可能となり、②はIH(インダクション・ヒーター。電磁誘導加熱)により可能となった。
つまり、「かまど炊き」の電気機器による再現は、マイコンとIHの発明によって可能となったが、どちらもなかった時代、「主婦をかまどから解放したい」と、不可能とされた「自動電気炊飯器」を開発した一家がいた。
──三並一家。三並義忠&風美子夫妻と6人の子供たちである。
三並一家の模索活動は「実験」のレベルを超えていた。
──それは「死闘」であった。
マイコンもIHもない時代である。使えるのは釜、ヒーター、バイメタル(2つの熱膨張率の異なる金属を組み合わせ、高温になると自動的に切れるスイッチ)のみ──実験回数1000回以上、使ったお米は1t以上。そして「三重釜間接炊き」という方法を編み出し、どの大企業も成し得なかった「自動電気炊飯器」を完成させた。この死闘の様子は、NHK『プロジェクトX』(第42回)「倒産からの大逆転劇_電気釜~町工場一家の総力戦~」において、2001年2月27日に放映された。
※以下は「東芝未来科学館」の公式サイトより引用。
新時代とは、今の時代の未来のこと。
新時代は、今の世界の全部を変えてしまえば訪れる。
台所に革命を起こせ!
羽釜など全て消して、電気釜にメタモルフォーゼしようぜ!
この世界初の自動電気炊飯器「電気釜」の発売は、主婦の家事労働を軽減したばかりか、毎朝5時に起きなくてもよくなり、主婦の睡眠時間を1時間延ばしたという。高価にもかかわらず、発売当初から売り切れ店が続出し、5年後の1960年には、全家庭の約半数にまで普及するという「台所革命」であった。
書いていて思ったのですが、「二重鍋」って三並一家の発明品なんでしょうか? 膠を作る「膠鍋(湯煎鍋)」に似ているのですが。
※湯煎鍋(ゆせんなべ):膠を溶解使用するために、膠を鍋に入れて直火で煮ると、膠を焦げつかせ組織を破壊するので、膠を入れる中子(なかご。glue pan)と、これを湯煎する湯を入れた外子(そとご。glue heater)とを組み合わせた膠鍋(glue pan/glue pot)を用いる。自動電気炊飯器「電気釜」を使った主婦が驚いたのは、自動で炊けることもあったが、それ以上に炊き込みご飯が焦がさずに炊けたことであったという。